スペイン語版 『ハヤテのごとく!(HAYATE mayordomo de combate)』


 『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』の舞台探訪でスペイン滞在中の「ひきこもりかけぶろぐ」の中の人が「スペイン語版ハヤテと君に届けゲット。」とツイートしているのを見て,そういえば半年前の旅行で『HAYATE mayordomo de combate(戦闘執事ハヤテ) Nº 13』を買ったんだっけ,と掘り出してきました。
 どうして放置していたかというと,購入直後にバレンシアのホテルで読んだときには,さほど工夫を凝らしているようには感じられなかったので。ところが,日本語版の第13巻(ISBN:4091211976)を買ってきてスペイン語版(ISBN:9788483577806)と見比べてみると……結構違う。原作をご存知の方ならお分かりだと思いますが,『ハヤテ』には引用が多いので元ネタを知らないと笑い処が分からない。それがスペイン語版では,コンテクストを知らずにそのまま読んでも(それなりに)意味がとれるように訳されていたので,ざっと読んだだけでは違和感を生じさせなかったのでした。
 以下,訳者の工夫が垣間見られる場面を掻い摘んで御紹介。せっかくなので作中時間にそろえて,愛沢咲夜の誕生日(4月3日)前日に公開です。

原型とどめず


[原文:ハヤテ] そういえば,お嬢様はなぜ「ナギ」という名前になったんですか?
[原文:ナギ] 「この世のすべてをナギ倒せ」という願いを込めて… 母が…
[西語:Hayate] Señorita, ¿Quién le puso el nombre? ¿Es por algún familiar?
[西語:Nagi] Me lo puso mi madre sin razón aparente. Le sonaba gracioso.
[直訳:はやて] お嬢さん,あなたの名前を決めたのは誰ですか? 家族のうちの誰かですか?
[直訳:なぎ] 名前を付けたのは私の母です。名前には特に意味はありません。聞いた感じが面白いからだそうです。

 表表紙の裏,見返しの4コマ。日本語に固有の問題だからというのは分かりますが,キャラの設定が変わってしまってますね(笑)

現地化


[原文:ワタル] ふとんが… ふっとばなかった。
[西語:Wataru] Yo lo coloco y ella lo quita. Yo LOCO-LOCO y ella loquita.
[直訳:わたる] 僕がそれ(lo)を置いて(colocar),彼女がそれ(lo)を持ってった(quitar)。僕はバカばっか(loco-loco),彼女はアホの子(loquita)。

 訳しても意味が伝わらないと思いますが,これはスペイン人にとっても唐突です。続くコマで解説あり。

[西語:-Saki-] Ah... ¡Uau! ¡Que divertido! ¡Es un juego de palabras! ¡Las frases tienen las mismas silabas pero agrupadas de forma distinta significan otra cosa!
[直訳:さき] え〜と… あぁ! 何て面白いのでしょう! これは言葉遊びなのですね! 2つの文章は同じ並びなのに,文節の切り分け方によって異なる意味になっているだなんて!

 もう一箇所,言葉遊びのシーン。こちらは相当に苦しい。


[原文:マリアさん] 窓が壊れてる。まーどうしましょ…
[西語:Maria] Este churrete esta blando... Habrá que decirle que se calle.
[直訳:まりあ] このホコリはエスタブランド}。黙っていろと言わざるを得ない。

 ※訳注 “エスタブランド”と発音すれば,聞き様によっては2つの意味に取ることが可能。素直に解釈すれば(1)esta・blando「柔らかい」の意味になるのだが,後半になると(2)esta・hablando「おしゃべりをしている」と受け取らなければ文脈が通じない。すなわち{エスタブランド}に二重の意味を込めてボケをかましたダジャレである。

無視


[原文:ナギ] たしかにこんなにいっぱいの人を見ると,ハ(ル)ヒじゃなくても自分のちっぽけさを感じてしまうな。
[西語:Nagi] No es que me quiera poner a filosofar, pero cuando ves marabuntas como esta te das cuenta de lo minúsculos que somos.
[直訳:なぎ] これほど多くの群衆を前にすると,我々は如何に微少な存在であるかということについて思索を巡らさざるを得ない。

 コンテクストを説明するのが面倒なところでは,要の箇所を削ぎ落として訳しているパターンもありました。

ぐぐれ


[原文:ナギ] ほう。なら今すぐ三大出版社を買い取って,ワ(ン)ピースとコ(ナ)ンと絶(望)先生が同時に載ってる夢の少年誌を作ってやろうか?
[西語:Nagi] Si quieres ahora mismo puedo comprar las tres editoriales más grandes del país y juntar en una sola revista de manga SHÔNEN las series del momento; ONE-PIXCE, ZETSUXÔ-SENSEI, y COXAN...
[直訳:なぎ] もし,私がすぐさま三大出版社を購入して,ワンピ×スとゼツ×オセンセイとコ×ンが1冊のショーネンまんがに同時に載っているものを作ることをあなたが希望するのであれば,それは私にとって可能なことです。

 先のパターンとは逆で,伏せ字もそのままにスペイン語へと訳してしまっており,読み手に意味が伝わらないのもお構いなしにしている場面。伏せ字(X)が混じっていて日本事情を知らない人は置いてけぼりになっていますが,きっとスペイン語圏の人だって興味が湧けば自分で調べるよね!
このように『ハヤテ』のスペイン語版は,背景を知らずとも楽しめるし,注意深く読むと(訳者の苦労が偲ばれて)もっと楽しい出来になっておりました。

きゆづきさとこ『GA 芸術科アートデザインクラス』〔3〕

 水越柚耶さん(http://kanai.dw.land.to/)が依頼するのに便乗して,きゆづきさとこ『GA芸術科アートデザインクラス』の第3巻(ISBN:4832278355)を COMIC ZIN にて購入してきてもらいました。東京から神戸経由で送られてきた商品が本日,札幌に到着。
 原稿を書き上げて早速読み始めたのですが,お目当ての「購入特典冊子」掲載のインタビューは実に有意義なものでした。内容を明かすのは差し控えますが,きゆづきさとこについて作家論を書くなら外せない秘話が盛り沢山な内容です。
 近時,ショップ特典という販売手法が氾濫気味で辟易していたところです。しかしながら,今回のリーフレットように「これを売りたい!」「この作者を応援したい!」という気迫の込められた仕事を前にすると嬉しくなります。

谷川流+武田日向 『蜻蛉迷宮 #1』

 原作:谷川流(たにがわ・ながる)+作画:菜住小羽 (なすみ・こはね)『蜻蛉迷宮(カゲロウメイキュウ)』の第1巻(ISBN:4048680676)を読む。読むたびに谷川流との相性の悪さにもう手に取るのをやめようとするのですが,くじけそうになると某giolumさんとか某trivialさんとかが〈読み〉の可能性を教えてくれるので,付き合いを続けています。

 本作『蜻蛉迷宮』は読む前に「カリヨン」の舞台探訪に連れて行かれたりして興味を持っていたところなのですが,ようやく単行本にまとまりました。
 学園ものの一種ではありますが,青春路線との印象を強く放つ表紙とは裏腹に,話の筋は相当にエニグマティックだじぇ。旧家の因習だの座敷*だのといった禁忌の要素を多分に含み,半世紀ほど前の探偵小説ものが持つ世界観を漂わせます。
 歴史が一回りした古いガジェットを分解再構成――というのは谷川流がこれまでにも『学校を出よう』『イージス5』で手がけてきているどころですし,ダークな作風であれば『絶望系』の前例があります。第1話を読んだところでは,執筆スタイルが共同になってもやはり本作は「谷川流」の作品群のひとつを構成するものだなぁと理解しました。
 読了して気がついたこと。私がこれまで谷川流は好きじゃないのに嫌いになれないでいたのは,叙述形式の問題だったのかもしれません。本作のテーマ(主題)は谷川流のものであるとして読んでいるし,セリフまわしも谷川流ならのではの言葉選びだと感じているのに,いつも読んでいる途中に湧いていた嫌悪感が無い。
 してみると“谷川流は(主題選択は)好きなのに(文章の語り口が)嫌い”ということだったのでしょうか。漫画という形態を取ったことにより,作画担当者(菜住小羽)による解釈&描写という手順を経由して提示されたため,相性問題が回避されたような……。
 コミックという形態の欠点として(文章表現よりも)物語的進度が遅いということがあり,第1巻は中盤に差し掛かったところで終わっております。本作のテーマについての論評は,また後日。今回は焚きつけられるまでもなく続きが楽しみ。

竹本泉 『たちこめるバラのかおり』

 昼過ぎに教員採用試験で出講してきまして。夕方に帰ってきたものの暑さのために火照ってしまい&室内が熱を持ってしまい,仕事を再開できる環境ではないので,体温&室温が下がるまで休憩。竹本泉『よみきりものの… たちこめるバラのかおり』(ISBN:475774935X)を読む。いつもよりふつーな気がしたけれど,雪だるまが出たり,ゴーンと鳴ったりしていないだけで,その実はいつもより変?
 短編魔法使いの弟子で最後に登場する先生エレン。このリボンはどこかで見たけれど……と思って〈メイキング〉をみたら,「昔 描いた魔法少女物の続編(?)です 15年くらい前の作品」とあって。本棚を掻き分けて探すと――『はたらきもの』ISBN:4391915456)でした。
 さらに続く「みみだったりみみだったり」の〈メイキング〉では,「(また別の魔法少女ものの)設定で別の魔法物のシリーズを描いたことがあって」「っで,その魔法物の学校を舞台にして今回のまんがを」とある。え? 制服のリボンが同じでなければ『世の中なまほう』ISBN:4872872231)と世界設定が共通だなんて分からないよ。うじゃうじゃ。

おがきちか 『Landreaall』〔1〕

 古書店にて,おがきちかLandreaallランドリオール)』の第1巻(ISBN:4758050260)を見かけたので購入。記憶に寄れば,海燕さんかペトロニウスさんが薦めていたように思う。
 読んでみて,ひどく後悔する。こんな作品の存在に6年間も気づいていなかったとは,情報収集能力を磨く必要があるなぁ。
 冒頭の“Act.1”では説明もそこそこのうちからストーリーが滑空する。ペンの動きが読み取れるかのような絵柄とファンタジックな物語展開との相乗せいか,往年の『ファンロード』を読んでいるような気分。
 第1巻では「ランドリオール」と「クレシェンドマリオン」の2部構成になっているが,通読してみることにより先行していた描写の背景が明らかになるという造り。読み解きが楽しい。
 国民年金自動車税の支払いがあって購入予算が乏しいところだが,何とかして続きを読みたい。

小林立 『咲 -Saki-』〔5〕 ¿¡Caliente!?

 アニメ放映もはじまる中,原作でも盛り上がりを見せている小林立(こばやし・りつ)の『咲-Saki-』第5巻(ISBN:4757525176)。
 この巻には番外編「昨夏のこと」が収められています。その冒頭,ゆーき(片岡優希)が「あっづー」と言っているコマには “ Caliente! ” と添えられています。確かにこれは,スペイン語で「熱い」を意味するのですが…… 

 スペイン語には,温度が高い状態を表す形容詞として2つのものがあります。

  1. caliente (カリエンテ)
  2. calor (カロール)

文法的には「気温が高い」場合には calor を使うのが正しい。caliente は「熱いお湯」「熱いスープ」などの場合に用います。あと,スペイン語で感嘆文を作場合には語頭に!を逆さまにした記号を添えます(これがなくても通じはしますが見た目のスペイン語らしさが消えてしまう)。従って,真っ当に訳すなら 

¡ Qué calor ! (ケ・カロ〜ル)

となります。他方,「今日は暑い日だ」というつもりで caliente を用いてしまった場合,別な意味にとられてしまいます。

caliente : 火照ってきた(性的な意味で)

一般的には誤訳とされるのですが,タコス娘の場合,わざと言い間違えているのかもしれない。

秋★枝 『純真ミラクル100%』

 惹かれるものがあって購入してみたところ,なかなか良かったのが秋★枝(あきえだ)『純真ミラクル100%』(ISBN:4832277200)。
 シンガーソングライターを目指して上京したものの3年,ようやく音楽事務所から声をかけてもらった女の子。事務所の所長がちょっとした意地悪で変な格好をさせてテレビに出演させてみたら大反響を得てしまって―― という芸能界もの。男の向けの少女まんが誌コミックエール!』の創刊号から連載中の作品。
 元々読み切り作品の予定だったとかで,連載に移行したばかりの第2話から第3話にかけては少々ぎくしゃくした感じがします。所長が思わず女の子をいじめたくなって,やっちゃったらそれが裏目に出て……というのは,単発ならばさておき,ストーリー展開を引っ張る駆動力とするにはそぐわない。そういうイジメは,いかにも悪役っぽい勝ち気な女の子がやらないと様にならないのに,所長のキャラと齟齬が出てしまっていて。
 それが,第4話から俄然面白くなります。主人公の女の子は,所長が気まぐれに「モクソン」なんていう,ちょいダサな芸名を付けられても前向きになっちゃう,とてつもなく“いいひと”。モクソンの“いいひと”度は,古河渚CLANNAD)のひたむきさ水無灯里(AQUA&ARIA)の前向きさ,ゆの(ひだまりスケッチ)の純朴さを持ち合わせているぐらい。そんなモクソンのキャラクターが際だってくるのは,藤林杏藍華/沙英に相当する突っ込み役が登場してこそ。本作の場合,モクソンの人気に便乗してグラビアクイーンをねらう「オクソン」が絡むことにより,厚みが出てきています。続きが楽しみ。

ヲタクの本棚

 先日,『マンガナビ』というところからの取材を受けました。その記事「ヲタクの本棚」の第40回「自称《マイナー・メジャー愛好家》の本棚」が本日より掲載されております。

一年ほど前に本棚の写真を公開したことがありましたけれども(id:genesis:20070919:p1),その記事を目にしての依頼だったようです。急いで返答を出したもので,今になってインタビュー部分を読み返してみると発言が雑ですね…… 
 提供した写真の元画像(書名を確認できる解像度のもの)を添えておきます。自己の認識では,人目に触れると差し支えがあるものはフレームアウトしているつもり。