大学院はてな :: 営業譲渡と労働力の承継

 労働法の研究会にて,東京日新学園事件(さいたま地判・平成16年12月22日・労働判例888号13頁)の検討。
 とてつもなく重要な判例。「この判旨には,深遠な宇宙を感じるよ」という発言が出たほど。
 どういう事案かというと,専門学校Aが経営破綻して解散し,学校経営事業を新法人Bが引き継ぐことになった。Aは,従業員Xらを全員解雇。Bは,旧法人Aの教職員265名中,採用を希望する183名の中から154名を採用。ここで採用されなかったXらが,雇用確認存在確認と不当労働行為に基づく損害賠償を請求した事案*1
 さいたま地裁は,労働者側の全面勝訴とした。
 この事件のどこが画期的なのか。それは,新法人の採用の自由を認めつつ,次のように説くところにある。

 「Bによる教職員の採用は,真正な新規採用とは到底評価することができず,Aと教職員との雇用関係を,賃金等の雇用契約の内容を承継しつつ,事業と有機的一体をなすものとして承継したに等しいものであると解するのが相当である。」
 「事業の全部譲渡に伴い,雇用関係が一体として承継されていると評価できる場合には,事業に現に従事する労働者が事業の譲受人に採用されないということは,事業に従事する当該労働者にとっては,実質的に解雇と同視すべきことであり(中略),事業譲受人の採用の自由を理由に,事業譲渡の当事者間〔新法人B‐旧法人A〕の合意のみ,あるいは譲受人〔新法人B〕の意思のみによって,いかようにもその処遇が決められること,すなわち 事業の譲受人による 事業に従事する労働者に対する労働者に対する完全に自由な採否 を容認するのは(中略)労働者保護に欠けると言わざるを得ない。」
 「労働力と一体として行われたと認められる事業全部の譲渡において,事業の譲受人〔B〕が,当該事業譲渡時点において譲渡人〔A〕と雇用関係にあり,かつ,譲受人との雇用関係のもとに引き続き当該事業に労働力を提供することを希望する労働者〔X〕を,当該事業における労働力から排除しようとする場合には,
解雇権濫用法理に準じ,当該排除行為が新規採用における採用拒否,あるいは雇用契約承継における承継拒否等,いかなる法形式でされたかを問わず,それについて客観的に合理的な理由を要し,
かかる理由のない場合には,解雇が無効である場合と同様,当該労働者〔X〕と事業譲受人〔B〕との間に,労働力承継の実態に照らし合理的と認められる内容の雇用契約が締結されたのと同様の法律関係が生じるものと解するのが相当である(これに反する当事者間の合意は,その限りで効果を制限される。船員法43条参照。)。」
〔 〕内は筆者による

 上級審での行方が気になるところ。
 本件のような事業譲渡パターンの事案について理解するためには,以下の論文が参考になる。

  • 野田進「企業組織の再編・変容と労働契約――営業譲渡に伴う採用拒否問題を中心に」『季刊労働法』206号(2004年秋号)52頁
  • 本久洋一「営業譲渡に際しての労働条件の不利益変更について」『季刊労働法』210号(2005年秋号)掲載予定

*1:正しくは,新法人が雇用関係の「不存在」を確認する請求をし(本訴),労働者らが反訴を提起したもの。