秋葉凪樹が織り成していた倫理観の倒錯劇 〜1995年の『かしまし』〜

密な繋がりを持つ友人の性が転換してしまった時、あなたはどうしますか?
こんな荒唐無稽な命題を投げ掛けてくれているアニメ「かしまし」が人気を博している。
青ひげノート :: かしましが織り成す倫理観の倒錯劇

 このエントリーを目にして真っ先に思い浮かんだのは,秋葉凪樹のオムニバス作品集『放課後』の第4話「おとこのこ物語」。『ばんがいち』の1995年5月号に掲載された作品で,医学的性転換もの

 秋葉凪樹(あきば・なぎ)という作家は久しく表舞台から遠ざかっており,御存知ない方も増えているかと思いますが,葉鍵系と親和性の高い作品群を時代に半歩ほど先駆けて生みだしていた漫画家です。
 さて,「おとこのこ物語」ですが,次のような出だしで始まります。

長い間 入院していた 友人が クラスに帰ってきた
それは もちろん 喜ぶべき ことでは あるのだけれど……
みゆきちゃん”こと 鹿島義幸(よしゆき)は
本物の “みゆきちゃん”に なって 帰ってきた
つまり――
「女」になって――!!

 ホルモン異常で性未分化だったため「とりあえず」男として育てられていたクラスメイトが,思春期になって女性性となったことへの戸惑い。

 主人公 「まあ おまえ もともと 女みてーだったもんな (中略) エロ本とか おまえ あんま 好きでもないみてーだし……」

義幸の帰還当初,主人公は男性同士として接していた。それが,ホルモン注射によって胸がふくらみ,女の匂いを発し始めた“みゆきちゃん”を避けるようになる。そんな主人公に追いすがり,繰り出される告白シーン。

 みゆき 「おまえはオンナになったって言われて驚きはしたけれど あぁやっぱりそうなんだ……って思った オレはヘンタイじゃなかったんだって」

みゆき(♀)から打ち明けられる,義幸(♂)として抱いていた恋心。この倒錯的告白を主人公(♂)が受け入れていく,というのが本作の主題。

 主人公 「おまえが女になっちまって…… おまえの匂いでどきどきしてるオレがいる」
 みゆき 「オレは女になっちゃったんじゃないよ――」

 みゆき 「おまえが好きだから オレは女になったんだ――」

不可避な宿命として「なっちゃった」のではない,主人公を想うが故に,選択的に女性に「なった」のだと告げる。そして《黄色い楕円》シーンに移ります。
 10年前は,このような単純な物語構造でも十分に先進的なものだったのにねぇ。『かしまし〜ガール・ミーツ・ガール〜』では主人公自身が性転換しており,3名が絡む多角関係で,百合要素も加味。3回転ほど捻りが加えられている。性倒錯は,どこまで進化(あるいは退却)を遂げるものやら。
放課後 (ホットミルクコミックスエクストラ (No.08))
 ところで,「おとこのこ物語」のヒロインは名前が鹿島みゆき,「かしまし」の舞台は鹿嶋市の鹿縞高校ですけれど,何か関係が?