『御馳走帖』読了
内田百輭(うちだひゃっけん *1)『御馳走帖』(中公文庫)ISBN:4122026938。
氏の作品を初めて読んだわけですが、これまで読まずにいたことを悔やむほど面白かった。なるほど、随筆の神様とうたう人があるのも分かります。敬愛するわかつきめぐみ先生が推しておられたので書店で一度手に取ったことはあるのだけれど、その時は買おうという気にならなかった。思い起こしてみると、あれは小説で、肌に合わなかったように感じた気がする。あるいは、旧仮名遣いに恐れをなしたせいだったろうか。
題名から察せられるように、こちらは食に関して綴った70数編からなる随筆です。1946(昭和21)年に出された本がその一部を為しており、古いものは昭和の初めに書かれたということですが、今読んでも面白い。例えば、シュークリームと題した一編。
「夜机に向かって予習してゐると、何が食ひたいかと考へて見ると、シユークリームがほしくなつて来る。
まるっきり、水原暦@あずまんが大王。それが明治40年頃の話として登場しているのには、恐れ入ります。
出てくる食材はというと、時代背景を考慮しても高級なものではなく、美食談とは程遠い。百輭先生が考えているのは、いかにすれば夕方5時の麦酒を美味しく味わえるか。夕食時に客が来ると機嫌が悪くなるといってはばかりません。酒が無いと聞けば、一度は応じた食事の誘いを断るほどのこだわりよう。朝食の英字ビスケットにしても秀逸で、IやLは歯ごたえが無くていけないだの、BやGは口の中でもそもそするからダメだの、好き放題言ってくれます。
こうなると、他の随筆も読みたくなってきます。西班牙(スペイン) までの高い送料を払ってでも読みたい。こんな愉快な作家、みすみす見逃す手はありません。さて、どうやって日本から調達しようか。
*1:お名前にある「けん」の文字は、門構えに月です。JIS基本漢字(JIS X 0208)に含まれていないため、数値文字参照という方法でUnicode文字“9592”を挿入しています。環境によっては表示されない場合があります。