大学院はてな :: 内部告発

 研究会にて、トナミ運輸事件富山地裁判決・平成17年2月23日)の検討。

大手運送業者である被告の従業員である原告がしたヤミカルテル等の内部告発は正当な行為であり,被告が,原告に対し,この内部告発を理由に,ほとんど雑務しか与えず,昇格を停止するなどの不利益な取扱いをしたことは,雇用契約上の付随的義務に違反する債務不履行であるとして,慰謝料,賃金格差相当額等の損害賠償請求が一部認容された事例
裁判所による要約

このうち、差別についての問題は除外し、内部告発(whistle-blowing)に焦点をあてて討議。裁判例をみると、内部告発にあたっては事前に企業内部で通報することをが求められているようである。先例としては、首都高速道路公団事件〔第一審〕*1群英学園事件控訴審*2 が挙げられる。しかし、この内部通報前置の例外として、報告者は3つの類型を提示した。
 (1) 法律が申告を義務づけている場合
 (2) 刑事上の犯罪を構成する場合、あるいは生命身体に危害を及ぼす急迫の危険がある場合
 (3) 内部通報ができない合理的な理由がある場合
 第3のパターンとして、生駒市衛生社事件(奈良地判・平成16年1月21日 労働法律旬報1572号40頁)があった。本件は、内部通報を経ることなくマスコミに情報を流しており、これに続く事例と位置づけられる。内部告発の態様について、裁判所は以下のように判示している。

告発に係る違法な行為の内容が不特定多数に広がることが容易に予測され,少なくとも短期的には被告に打撃を与える可能性があることからすると,労働契約において要請される信頼関係維持の観点から,ある程度被告の被る不利益にも配慮することが必要である。

 この判示によれば、本件でも内部努力によって問題解決を図ることを《原則》とすることは変えていない。しかし、それに続く部分で、原告労働者が「管理職でもなく発言力も乏しかった」とし、本件での「内部告発の方法が不当であるとまではいえない」とし、労働者を保護したもの。
 《原則》といいながら極めて限定的にしか作用しない(むしろ、例外に該当する場合がほとんどと思われる)内部通報前置ルールについて、ひたすら議論をした。

*1:東京地判・平成9年5月22日 労働判例718号17頁

*2:東京高判・平成14年4月17日 労働判例831号65頁