ぺとぺとさん

 木村航(きむら・こう)『ぺとぺとさん』(ファミ通文庫ISBN:4757717474)読了。
 転校生・藤村鳩子は妖怪ぺとぺとさん(通称・ぺと子)。おっと、ここでは「妖怪」は差別表現なので、特定種族と言い換えなければならない。それはともかく、ぺと子はかわいいものと触れあうと、ぺとってしまう体質なのだ。

【ぺと・る】
 〔動詞〕 特定種族ぺとぺとさんと触れあって体表面が融合した状態となること。どちらかが眠ってしまうまで離れることはできない。効率よく配偶者を確保するための進化と考えられる。

 少年シンゴは、水泳の授業中、よろけたぺと子(スクール水着着用)を助けようとしたところ、ぺとってしまい……
 コンセプトの勝利、です。
 思春期にある中学2年生の男の子が、女の子に手を触れたときの悶々とした《思い》。触感のもたらす効果を設定の段階で作中に組み込んでいる。妖怪と一般人の共生というと、岡野史佳が『ラブリー百科事典』でコミカルに描いていました。本作は、登場する妖怪そのものを萌えの対象とするとどうなるか、という発展的応用例。ぬりかべのぬりちゃんは、おでこに表示される文字で会話する。これなども、「無口少女」という萌え要素がキャラ設定として組み込まれている。
 萌え攻撃は、もう1つ仕掛けられている。この町では、第二子以降はすべて女子という現象が長年にわたって続いている。すなわち、妹率100%。そこで町役場は、村おこしに「にょみの里」というキャッチ・フレーズを喧伝する。ちなみに「にょみ」とは、漢字表記すると女未である。
 擬音の効果的な使用も特筆に値する。これは、題名からしてお分かりだろう。
 イラストレーターにはYUG(ゆぐ)を起用。はうぅ、かわいいなぁもう。
 設定の勢いで読ませるのが前半。ところが後半、いきなり失速してしまう。「川底のオブジェ」から、カッパ娘沙原くぐる(と、その妹・ちょちょ丸)が中心となる。ところがこちらは、設定のレヴェルで面白味を内包するキャラではない。そのうえストーリーが練られていない。活劇風に描写することで場を持ちこたえているのだが、空回りしている。もったいないおばけになりたい気分。

http://www.petopeto.com/ (アニメ化情報)
http://www.enterbrain.co.jp/fb/special/200402_01.html (「ぺとぺとさん」ってなーに?)