INDISPENSABLE COMICS 2005

 【吸血鬼もの】というカテゴリーに属するマンガの系譜をまとめてみたら面白いかも知れない、と思いついた。折も折、雑誌“STUDIO VOICE”の2005年6月号(ASIN:B0009EZ1I8)における特集『最終コミックリスト200』では「ヴァンパイア」という項目が立てられていたので、資料になるのではないかと思い買い求めてきた*1
http://www.infaspub.co.jp/studio-voice/sv-backissue/contents/2003/sv-contents.html
 この特集は「00年代マンガのすべて」という副題から察せられる通り、同時代的に評価されるべきとされる作品200を掲げている。こうした作品リストについては「××が入っていないのは何故か」といった論評のされ方が為されることも多いが、ここではそのような評価の仕方はしない。リストの内容に不満があるなら、代わって自分でリストを作成すれば良いだけのこと。
 興味深かったのは、収載200作のうち、私が読んでいたのが14作品に過ぎなかったことである。かなり読マンガ量の多い私であるが、網羅的に観測しているわけではないので、このようなことは頻繁に起こる。
 というのも、このリストに載っているのは大型グロース(成長株)であるのに対し、私は小型バリュー(割安株)の発掘に努めているから。「サブカルチャーの中でサブカルしている」とも言える。
 そんなわけで、新鮮な気持ちでリストを眺めたわけですが…… 添えられている文章の質が低い。13人が分担執筆しているのですけれども、執筆者の力量差がはっきり出てしまっている。
 申し訳ないが、1人は実名を挙げての批判の対象になっていただくことにする。【吸血鬼】の項目を書いた、山田和正氏(1982年生まれ)。

怪力少女(設定は高校生だがどうみても幼女)が宇宙人吸血鬼に強引に血吸われて性的絶頂に達してる。イっちゃう。小学生低学年女子が読むマンガか? 吸血鬼が楽しそうに女の子を「家畜」呼ばわりとかいきなりUFO乗せて宇宙から「地球よりお前が大事!」とか言うの、教育的によくないよ! バタイユクロソウスキーなら「悪」と呼びますよ! でも魔法かけられてダブル性転換した状態で血吸ったり。ジェンダートラブル! 狂ってる!

このどこが悪いのかというと、取り上げた作品の本質(面白さ)を伝える努力をしていない。これはせいぜいがコメントであって、レビューとは言えない。この紹介文を読んで、紹介された作品に興味が湧いてくるだろうか? ウケの良さそうな単語(要素)を並べているから、「キャラ萌えするのが当然」な読者相手であれば脊髄反射的に喜ばれるのかもしれない。しかし私の価値観では、山田氏の所業はプロの水準を満たしていない。やるべきことを外してみせるというのも芸だが、山田氏は全般的に要所を外している。
 ちなみに、ここで引用したのは、おおばやしみゆきモンスターキャンディ』の項。率直に言って、このような紹介のされ方をした作者と作品が可哀想だと思う。
 それに対し、宮昌太朗(みや・しょうたろう、id:miyashow)氏は群を抜いている。どれを例に出すか悩むところだが、類似・対比作品の固有名を挙げずに紹介文を書くという難易度の高いことをしているものを引用することにする。

ごく普通の高校生のごく普通の恋愛、かと思えばさにあらず。レイプの痛み、自殺願望、童貞喪失の高揚感、離婚した両親に引き裂かれる心、腹違いの妹……と、これでもかといわんばかりのクリシェのオンパレード。にもかかわらず、メチャクチャ面白いのは、徹底してメロドラマに殉じた“物語”の強さにある。極めつけは、他人を“モノ”としか認識できない極悪人・滝川。こんな最低最悪の人物を描けたというだけで価値のある作品。

1作品につき200文字程度の短文なので、難しい。しかし、こうして同じ制約の中にある執筆者同士を比べてみると、上手下手がわかってしまう。宮氏は、この字数制限の中で内容紹介のみならず着眼点の指摘まで行っており、評論と呼ぶに足りるものを我々に提示している。なお、こちらは中野純子ちさ×ポン』の紹介文。私は、このような書評に接したときに「これは読んでおかなくては」と思う。
 宮氏は他にも、衆知度が高くて《書きにくい》であろうと思える『失踪日記』『ケロロ軍曹『エマ』などでも、小気味よい紹介文を書いている。志村貴子についてのコラム「すべてが最小限の要素で研ぎ澄まされている」も、うならさられる。伊藤剛氏との対談*2においても整った論旨を提示しており、その才能が窺える。
 1人の評論家を発見したということに、『スタジオ・ボイス』354号の価値を見出した。


▼ おとなりレビュー

作品のチョイスとレビュアーの質に、ちょっと疑問を感じるような出来だった。
http://d.hatena.ne.jp/matsukura/20050515/p1

なんだろうー、身体の関係を持った後に「実は結婚してるの」って告白されるぐらいの陳腐な結末だよ。
http://d.hatena.ne.jp/roman-taste/20050506#p8

*1:結果としては、期待に添うものではありませんでしたが。

*2:http://d.hatena.ne.jp/goito-mineral/20050407#p2