玄鉄絢 『少女セクト』

http://blog.livedoor.jp/yuri_amagasa/archives/30503809.html百合な日々 :: 雨傘さん)
 こちらで絶賛されていたので,玄鉄絢(くろがね・けん)『少女セクト』(ISBN:4877348824)を買い求めてきた。
 なるほど,これは秀作です。
 分類してしまうと,女学校における百合もの。収録されている7話において,それぞれにカップリングを成立させていく。そのせいで登場人物が多く,ストーリーに絡んでくる人物に限っても15人いる。そのままでは拡散していってしまいそうになるところだが,表紙に登場している二人(内藤桃子と藩田思信)をストーリーテラーとして介在させることで繋いでいる。
 しかし,この設定が一読しただけでは理解しがたい。基礎知識を与えられずに『蓬莱学園』の世界に放り込まれたような――では伝わらないか。ん〜と,エロパロ同人誌に例えると,「絵が綺麗なので買ってきて読んでみたら元ネタを知らないのでキャラがどうしてこんなことをしているのか良くわからないけれどシチュエーションだけでも萌えるので満足」というような状態。ストーリーから切り離されたところでドラマは演じられている。それが本作に浮遊感をもたらしているのだろう。
 起承転結の「起」を欠いているので,なぜ彼女たちが思慕の情を抱いているのかは明かされない。キャラが立つ前に早くも事に至っている場合も多い。「どうして好きになったのか?」などはお構いなしに,「好きになったらどうするか?」を描いていく。
 他方,背後に緻密な設定が用意されているであろうことは随所から伝わってくる。単行本化にあたって書き下ろされた〈人物設定〉を読んで,ようやく睦み合っていた彼女たちが何者であったのか(そして何を描きたかったのか)が事後的に理解できたという話も幾つか。2つある学生寮につき,入寮生の世帯所得や浴室の面積といったことがストーリーの外部で披露されるのは,作品にリアリティを与えるという目的を失った作者の自己満足ではないのか,という疑念を私に抱かせる。難読な名前の少女たちを次々に繰り出してくるのも,設定に過剰な思い入れを持つ作家が陥りがちなパターン。

  • 第一話。石動菖蒲(いするぎ・あやめ) × 鷹代紅緒(たかしろ・べにお)。幼馴染み。
  • 第二話。藩田思信(はんだ・しのぶ) × 燕条寺真弥(えんじょうじ・まーや)。御主人様に命令する忠犬。
  • 第三話。狛井時雨(こまい・しぐれ) × 狛井千鶴(こまい・ちずる)。姉妹。
  • 第四話。鷲見雛(すみ・ひな) × 弓梢朋衣(ゆはず・ともい)。調教。
  • 第五話。鳰旦蕗(ねお・あさふき) × 犬吠崎雪華(いぬぼうざき・せつか)。屈折と交錯。
  • 第六話。甲斐盟絵(かい・ちかえ) × 葦切誌乃(よしきり・うたの)。魔法。
  • 第七話。諏訪部麒麟(すわべ・きりん) × 吉岡柴(よしおか・まつり)。バニーさんとネコ。
  • そして締めくくりに,藩田思信×内藤桃子*1の予兆を示し,ひとまず第一幕を閉じる。

 それにしても,である。『少女セクト』の質の高さと品の良さは,特筆に値する。感動はしないが感心させられる。さわやかに淡い刺激が広がるシードルのような作品*2
http://www.lo-tek.info/玄鉄絢

*1:わかっている人には説明不要だと思うけれど,[攻×受]です。

*2:cidre(仏)。微炭酸の林檎酒。sidra(西)に同じ。→Wikipedia