スペイン「ケルト」紀行

 古代のヨーロッパ中央部を席巻していた民族,ケルト人(ガリア人)に興味が湧いてきたので,積み上げてあった蔵書の中から武部好伸(たけべ・よしのぶ)『スペイン「ケルト」紀行――ガリシア地方を歩く』(2000年,ISBN:4882026473)を探し出して読む。
 まず,副題にあるガリシア地方の説明からしないといけませんね。イベリア半島の北西部のことです。リアス式海岸の名前の由来になった場所で,漁業が盛ん*1。寒冷で多雨な西岸海洋性気候で,赤茶けた大地のイメージで語られる「スペイン」とは程遠い場所。言語的にも異なっていて,ポルトガル語と良く似たガリシア語が普及している。
 ガリシア地方へは,紀元前6世紀頃にケルト人が定着。長らくローマの支配を逃れていたが,紀元前19年,皇帝アウグストゥスの治世に征服される。

 二千年も前にローマの影響下に入ったうえ,イベリア人との混血が進んだのだから,ケルトの名残など消え失せていると私は思っていた。そんな認識を改めさせてくれたのが本書。
 著者は〈ケルト文化圏〉をテーマに著述活動を展開するエッセイスト。曰く,ガリシアは「ラテンの鎧を着たケルト」なのだと言う。ローマに征服されなかったアイルランドと異なり,ガリシアはすっかりローマ化(ラテン化)してしまった。それでも,著者はガリシアに残る〈ケルト〉を次々と探し出していく。オウレンセ(Orense)のバグパイブ楽団,セブレイロ村(Cebreiro)にある石の家パリョーサ(palloza),丘陵に設けられた集落ヴィラドンガ遺跡,「ティル・ナ・ノーグ」を望む最果ての地にあるバローニャ遺跡,それにサンタ・テクラ遺跡。
 スペインの側から観察したのでは目にとまらないであろう〈ケルト〉を浮かび上がらせてくれる興味深い本であった。意気込みの余り,些細なことにも「これもケルト! あれもケルト!!」という論調になっているのはご愛敬。

*1:ちなみにスペインでは,イカもタコも良く食べます