悪名高き皇帝たち[一]

 塩野七生(しおの・ななみ)『ローマ人の物語――悪名高き皇帝たち[一]』(ISBN:4101181675)読了。ようやく文庫版の最新巻に追いついた。

ローマ人の物語〈17〉悪名高き皇帝たち(1) (新潮文庫)

 題名の「悪名高き皇帝たち」は反語的である,と塩野は冒頭で述べる。ここで批判されるのは,紀元2世紀の初頭に活動したタキトゥスらの史観。なぜ同時代の歴史家からは批判されたのかを解き明かしていく。この分冊[一]はティベリススの治世について。
 塩野は次のように考える。神君カエサルが青写真を描いたところで暗殺され,神君アウグストゥスは巧妙な手段を用いてデザインを実現していった。その後を継いだティベリススの為すべき役割は,着手ではなく定着であり,メンテナンスに重要性があった。それ故,派手さはなく地味。財政再建策を採ったためケチとの評判がついて回る。
 この巻の始まりは,ナポリ湾に浮かぶカプリ島の情景。人間嫌いになったティベリウスはローマを離れ,断崖の上に経つ館に引きこもるが,それでも統治することを放棄はしなかった。元首制を信じながらも元老院に裏切られる皇帝の失望と徒労感。それを,南イタリアの絶景を眼前に望みながら孤愁を抱える男の不調和として描く。