藤沢晃治 『「分かりやすい文章」の技術』

 専門学校で日本語表現法を講義するため資料づくりとして,藤沢晃治(ふじさわ・こうじ)『「分かりやすい文章」の技術』(ISBN:4062574438)に目を通す。すると,法律を取り上げている箇所で間違いを発見。

 裁判の判決で裁判長は,まず「被告人を死刑に処す」などと主文を読み上げ,それから判決理由を述べるのが普通です。先に判決理由を長々と述べて,「無罪だろうか? 有罪だろうか?」と気をもませるようなことはしません。
要点を先に,詳細は後に書く (52頁)

 ここが誤り。確かに,判決文では最初に主文があり,それから判決理由が記されています。しかし,死刑判決の場合だけは「主文の読み上げを後回しにする」ということが慣習として行われている。
 他,『「分かりやすい表現」の技術』(ISBN:4062572451)でも法律文書が違反例として挙げられていたのだが,マンション管理規約の〈改善例〉は指示語の使い方が不正確*1。税額控除年末調整申告書の〈改善例〉にしても,元の文と文意が変化しており,法律的な見地からすると不正確さを生じていた*2。法律文書が分かりにくいとの批難は甘んじて受けなければならないとは思う。かと言って,分かりやすさと引き替えに意味が変化してしまうのは困る(と考えてしまうのが専門家)。
 以上の点につき,筆者に配慮を求めるメールを送付した。
 誤解の無いように添えておくと,良く出来た本です。私自身は既に体得しているような事柄だったので得るものは少なかったのですが,どういう本にすれば売れるのかは学ばせてもらいました。

*1:著者は「××した場合には○○しなければならない」という文書を分かち書きにしたうえで,「1.××」に続く文章を「2. この場合...」としていたが,これでは指示語「この」が何を指しているのかで紛争になりかねない(と思うのが法律屋)。あいまいさを排除するためには「2. 前項の規定に該当する場合...」のように書く必要がある。

*2:著者は,ある長い文書を箇条書きに置き換えて「次の(1)〜(3)の場合」として項目(1)(2)(3)を並べていた。しかし元の文書では「(1)かつ{(2)あるいは(3)}」という構造だった。