田中メカ 『7時間目ラプソディー』

 「ラブコメ」がブームとして現れたのは1980年代前半,少年まんがの分野においてだという。ササキバラ・ゴウは『〈美少女〉の現代史』(ISBN:4061497189)の83頁以下においてあだち充「タッチ」や高橋留美子うる星やつら」などの作品を挙げ,(1)少女まんがやアニメから影響を受けた可愛く魅力的なキャラクター,(2)成就することが強く禁止された恋愛感情――といった構造を説いています。

 現在,ラブコメを描くことに最も自覚的な作家として赤松健を挙げることができるでしょう。私は少年マンガの経験値が低いため苦手としているのですが,『ラブひな』『魔法先生ネギま!』を読んでみたところ「上手い」と思いました。でも,どんなに技巧的に上手くても,赤松健の作るものは《少年マンガ》なのです。ヒロインの内面を伝える努力をしているのはわかりますが,それは美少女ゲームに倣ったものに留まるものでしょう。
 では,少女まんがでラブコメを描くとどうなるのか――。その模範解答たり得るのが田中メカ7時間目ラプソディー』(ISBN:459218839X)。田中は『お迎えです。』でもラブコメ色を強く出していましたが,恋愛成就を妨げるものが「あの世」「この世」という深遠な障害であったため,最後の方ではテーマが重苦しくなってしまいました(それでもキッチリ描ききってみせたのが『お迎えです。』の良さなのですが)。

 このたび『7時間目ラプソディー』で待ち受ける障害は〈教師と生徒〉という社会的身分。学園ラブコメの基本パターンを仕掛けてきます*1

生まれて初めて
意識した男性は
私の「せんせい」でした
第2話 冒頭のモノローグより

主人公は,おさげ髪で委員長体質な読書好き藤堂倫子(とうどう・りんこ)。恋のお相手は,担任の現国教師佐久先生。ちょっかいをかけてきながらも「教師」という一線から踏み越えてこない先生,そして,うぶな恋心を少しずつ育てていく「生徒」。少女まんがでラブコメを展開されると,ていねいな心理描写に胸がときめいて悶絶しそう。

 しかも,田中メカが描くヒロインの艶(つや)っぽさときたら! これほど上品に色香を漂わせることができる作家は他に居ません。
それでいて,コミカルな場面での「はじけ具合」もまた秀逸。二人の微妙な関係を,秋の文化祭,夏の合宿,そして卒業という3つのエピソードで綴る『7時間目ラプソディー』。さらに描き下ろしの後日談「そして春は過ぎ」という止めの一撃まで用意されている。
 誰もが楽しめる少女まんがちっくなラブコメ

7時間目ラプソディー (花とゆめCOMICS)

*1:あ,嫌なことを思い出した。くりた陸北極星ポラリス)に投げキッス』〔4〕(ISBN:4061764209)のせいで,〈教師と生徒〉型にはトラウマがあるんですよ。あれのどこが「感動のクライマックス」なんだ……