大学院はてな :: 出向先での配置転換

 研究会にて,太平洋セメント・クレオ事件東京地裁判決・平成17年2月25日・労働判例895号76頁)の検討。
 原告Xは,親会社Y1から子会社Y2に出向していた労働者。出向元(Y1)では部下を持たないマネージャー職にあった。出向先(Y2)ではコンクリートの強度試験に従事していたが,Y2内部で配転がなされ,教育事業部(通信教育担当)へと異動になった。
 Xは,本件配転は嫌がらせであるとして訴えを提起。当該配転命令の無効確認と慰謝料300万円の請求を求めた事案。
 裁判所は請求を棄却。
 理論的には面白い論点を含む。出向先での人員配置が争点となった,おそらく初めての事例。(A)出向してきた労働者と(B)元々その会社にいた労働者とでは,配置転換をするにあたって考慮すべき要素が異なるかどうかだが,議論してみたところ,出向命令の目的(余剰人員として体よく追い出されたのか,教育訓練のために修行に出されたのか等)によって,出向先で従事させることのできる業務に制約が加わりそうな感触があった。
 ただ,本件の場合には,Y2へ出向した目的というのが明らかではないため,出向目的の観点から制約をかけるのは無理だろう。そうなると,東亜ペイント事件最判最高裁第二小法廷判決・昭和61年7月14日・判例時報1198号149頁)の法理により,使用者に幅広い裁量が認められるということになる。裏の事情では「不当な動機・目的」があったのかもしれないが,訴訟資料からは明らかではないため,結論としては請求を認めなかった裁判所の判断が支持されることになろう*1

*1:理論構成がおかしなところがあったのだが,それはさておき。