納都花丸 『蒼海訣戰』 #1〜#2

 納都花丸(なんと・はなまる)『蒼海訣戰(そうかいけっせん)』の第2巻(ISBN:4758060371)あとがきでは,

  • 仮想戦記: 内容がアレ
  • 架空戦記: 内容がまとも

という区分法が紹介されている。さて,この作品はどっちだろうねぇ。
 物語の舞台は,津州皇国(つしまこうこく)の水軍士官学校。騎兵大尉を兄とする三笠真清(みかさ・さねきよ)が,十五期主席生徒として入学するところから始まる。
――って,まるっきり司馬遼太郎坂の上の雲』です。秋山好古秋山真之の兄弟をモチーフにとっていることが分かりやすすぎるくらい現れている。取り巻く「列強」にしても,帝政が続くヴェラヤノーチ,軍事国家レヒトブルグ,産業大国クラカレンス。

蒼海訣戰 1 (1) IDコミックス REXコミックス

 で,このままでは日露戦争の再現になってしまいそうなところを,アレンジとして加えられた要素が2つ。
 まず第一に,津州皇国には「世界で唯一とがった耳と尻尾を持つ少数民族」追那(オイナ)人がいることにして…… そのため主人公はネコ耳です。追那人にはアイヌのイメージを被せているのですが,割烹着でお手伝いさんなネコ耳の幼女も出てきます。そして第二に,皇女は巫女さんで14歳のドジっ娘! 御前会議で転んで袴がめくれて(以下略)
 ちなみに,納都花丸の初期作品『大天使の剣』(ISBN:4896134117)は,ショタというかBLというか耽美というか,とにかくそんな系統な作品なので,本作も801的読みに耐えられる作りになってます。
 とまぁ,いろいろ盛り上げ要素で装飾されているのですが,ストーリーはすこぶる正当な成長物語。展開はこなれているし,絵柄も丁寧だし,とにかく卒がない。第1巻は登場人物の顔見せで終わってしまった感がありましたけれど,第2巻でテーマを一つ消化して作品にメッセージも込められてきました。
 問題は――何をどこまで描けるかで,しょうね。
 戦記物ですから,列強に小国・津州皇国が挑み,その指揮を主人公たちが執るところまで話を進めて終わるのが望まれる姿なのでしょうが,この執筆速度だと完結はいつになることやら。士官学校を卒業するところで終わってしまうと,伏線の回収が間に合わないだろうし。今後に期待できる内容なのですけれども,とりまく環境が執筆の継続をいつまで許してくれるかどうか,そちらの方が気がかりです。
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