押井守 『スカイ・クロラ』

 夕方からのお仕事だったのですが,職場で「帰りに映画を観ていこう」と声が掛かりました。唐突だったのでどうしようかと思案したのですが,積極的に拒否するほどの理由も無し。そういったわけで『スカイ・クロラThe Sky Crawlers)』を鑑賞。
 ん〜 さすが森博嗣原作。初っ端から戦闘シーンで始まり,そのあと80分間はエピソードが積み重なっていくけれども,ストーリーがまったく動かない。戦争映画としては,すこぶる正しい造り。
 背景は色味豊かな3Dで,人物はとぼけた色彩の2D。この組み合わせによって,作品世界における登場人物たちの存在的不確かさが表れてくる。
 この作品,登場人物の固有名が強く認識されない(結末にまで至れば,どう呼ばれるかにはあまり意味が無いことが納得できる)。そういうこともあって,キャラの名前が出てこないので愛称を付けて処理していたのですが…… 特に《南雲隊長》の演技は渋くて良かったなぁ。
 終盤,あと20分を残すというところで長台詞が3回登場し,一気にストーリーを畳みに掛かる。この構造をどう受け止めるかで作品評価が変わるのではなかろうか。異動先のポーランド(?)から物語に加わる女性パイロット(名前が覚えられなかったので《実存ちゃん》と仮称する)が,着いてこられなくなった人のための救済措置「キルドレって何なの?」を過剰な演技を伴って繰るのは,私にとっては少々興ざめでした。この《実存ちゃん》が不在だと虚構世界が内部で閉じてしまうので必要なキャラクターだとは思いましたけれど。でも,自我についての問いかけはエヴァにおいてアスカが通り過ぎた径,でしょ? 森博嗣は“その先”に踏み出しているはずなのに,《実存ちゃん》に引っ張られてヘーゲル的な読解が鎌首をもたげてしまうのはちょっと。
 総じて良い出来でございました。『スカイ・クロラ』は実写だとつまらない絵になってしまいそうなところ,アニメーションという技術に適合的な題材であったかと思うところ。