森田季節 『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』

 先週,神戸で水越柚耶@神奈井総社さんとお会いしたときに「友人が書いた本です」と紹介されたのが森田季節。第4回MF文庫Jライトノベル新人賞(優秀賞)受賞作家。

 紹介されただけであれば書店で見かけたときに思い出すかも――というところだったのですが,柚耶さんからお贈りいただきました。
 本作,森田季節 (もりた・きせつ)のデビュー作となる『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』(ISBN:4840124221)は4つの章によって全体が構成されている。このうち第1章は帰りの機内で読んだのだが,この作家との“付き合い方”を把握するまで若干の戸惑いがあったことを告白しておく。まず文体の問題であるが,〈1〉読点(、)の打たれているところが少ないのと,〈2〉漢字で書き表すことが可能な語句についても仮名表記になっているところが多いのと,それに〈3〉文の主語を掴みかねることがあったのとが理由で,視線が活字を追う速度に脳の読解速度が付いてこない(取りこぼしが頻繁に生じていた)。また,上述した第3の理由に関連するのだが,登場人物をキャラクターとして認識する前に新たな登場人物が出てきたため,混乱を起こしたというのもある。
 もっとも上述した問題に戸惑ったのは第1章のうちのことであって,第2章に入ると支障はなくなった。
 本作の主題になっているのは,《イケニエビト》の少女を追う《タマシイビト》。突飛な設定を掲げているために,アイデア勝負なところのある作品だ。系譜としては,桜庭一樹の《地方都市シリーズ》が主題に置いていたような閉塞感(とその打破への足掻き)を描いた作品であると位置づけられよう。率直に言って,結末に当たる第4章は言葉足らずという感が強い。第2章から第3章にかけて,2人のヒロイン――明海(あけみ)と実祈(みのり)の奇妙な関係に関心を持たせるところまでは至っていたのに,失速気味に終わってしまったところは惜しまれる。
 総評としては,これからが期待される作家。某まいじゃーに倣い自分なりに名台詞を数えるのを常としているのであるが,本作の場合は4つを認定(←小生比で,かなりの好成績)。これなら続刊も買ってみようかな,と思う水準でした(もっとも,あと2冊も頂戴しているので近いうちに読むつもり)。