野田進編 『判例労働法入門』

 3週間ぶりにスケジュールが埋まっていない日を迎えました(この時期は公務員採用試験や教員採用試験の一次試験直前なので仕事の依頼が大量にやってくるのです)。もっとも,今日は外出する必要がないというだけであって,依頼原稿やら教材作成やらを抱えているので在宅勤務ですけれど……
 さて,数日前に有斐閣のIさんから野田進(のだ・すすむ)編『判例労働法入門』(ISBN:4641144036)をお届けいただきました。「執筆者一同」からのご恵贈となっていますが,たぶんYさんが手配してくださったのだろうな。ありがとうございます。
 本書の執筆者は,編者の野田進先生を筆頭とする,

といった九大の研究会グループの皆さんです。
 本書は,書名にも掲げられているように《判例》を重視するところに特徴がみられます。私が学部で勉強した頃の古い教科書だと,脚注で「××事件を参照」と書いてあるのが一般的でしたけれども,その後のは判例を本文の中に織り込んでいくのがトレンドになっています。判例法理によるところが多いのが労働法の特質ですので,これは自然な流れ。それが本書では,解説文と判例とが(ほぼ)同格にまで引き上げられています。随分と多いように感じたので数えてみたところ,収載されているのは112もの判例。それらが,半頁から1頁ほどかけて〈事案〉と〈判旨〉をじっくり紹介しています。端的にいうと,この本をテキストにすれば『判例百選』は要らないですね。学部の試験で問われるような箇所は取り込んでしまっているので,シームレスな授業の組み立てになることでしょう。
 その代わりに,この本で扱っているのは基礎事項に留まります。書名に《入門》と付せられている所以ですね。全体で330頁という標準的な厚さの本において判例を懇切ていねいに説明しようとすれば,そのぶん説明する事柄を絞り込む必要があるわけで。潔い割り切りによって削ぎ落としを図り,選び抜いた論点について活き活きとした姿を伝えようと目論んでいるところが本書の見どころでしょう。