支倉凍砂 『狼と香辛料 X』

 午後に専門学校での出講があって出かけたのですが,通勤の途上でネクタイをしていないことに気がつきました。どうも家を出た時点で変調が生じていたらしい。家に戻ってきたところで身体を起こしているのが辛くなってきたので,横たわりながら支倉凍砂(はせくら・いすな)『狼と香辛料 X』(ISBN:4048675222)を読む。そういえば,前巻を読んだのも風邪で動けなくなっていたときでした。ちょっと調子の良くない時には,この作品の持つテーマとテンポとが丁度合っているのです。
 さて,今回は《寄り道編》として羊が名産の島国 イングランド ウィンフィールへ。扱う商材が個人の手には余る政(まつりごと)にまで大きくなってしまいましたので,駆け引きをめぐる臨場感は薄れています。故郷というキーワードが機能していなければ,本当にただの引き延ばしになってしまいそうなところでした。
 今後の見どころは,旅の連れであるコルを加えたチームとしての側面でしょうか。本作が恋愛ものとして収束するならばいざしらず,経済小説としての魅力を成り立つには〈人を動かす〉というところが未達なので。