労働法判例 :: 解雇された中途採用者が再就職した場合の地位確認請求

 久しぶりに労働法の研究会に参加。
 今回はニュース証券事件東京地裁判決・平成21年1月30日・労働経済判例速報2034号3頁)がお題だったのですが,実に興味深い事件でした。
 原告労働者Xは,A証券を退職してY証券へと転職してきた営業職員。毎月の給与は65万円の契約であったところ,最初の3か月間の手数料収入が少なく給与ぶん稼げていなかったところにサブプライム問題が発生した。そこでYは,試用期間(6か月)中途においてXを解雇したもの。その後,Xは労働局に斡旋を申請して金銭解決を求めたりした後,本件訴訟を提起。また解雇の2か月後にB証券に再就職している。
 裁判所の結論は「解雇無効」でした。これは,まぁ,当然の判断でしょう。
 興味深いのは,その後の説示。既にXは再就職しているから――という理由で地位確認請求を認めず,損害賠償請求だけを認容しています。
 伝統的な労働法の理解では,実態としては原告労働者が再就職している場合であっても,地位確認請求(労働者としての身分が存続していることを認めることにより,訴訟終了時点までの賃金相当分の支払いを使用者に命じる)という法律構成をとることで解決を図ってきました。原告労働者が地位確認請求をする際には,建前のうえでは《地位確認請求が認められれたあかつきには,今の再就職先を辞めて前の会社に戻ってくる》というフィクションを組み立てておくのですが,その“お約束”が通じていないというのが本件の面白いところ。
 本件において裁判所は,労働局の斡旋で金銭解決を目論んでいたことを理由に挙げて原告主張を斥けています。しかし,紛争解決にはパターンというものがあって,行政を通じての斡旋(=強制力に乏しい)を使うならば金銭解決でいいや,という選択もあるので,本件説示は裁判所の早とちりでしょう。
 他,試用期間の途中でにおいて成績不良を理由とした雇用の打ち切りは可能なのか? といった論点もあり,良い議論の素材でした。