森田季節 『プリンセス・ビター・マイ・スウィート』

 午前中に予備校で講義をして自宅に戻る。午後,仕事をしようかといちど机に座るものの,あまりの暑さにめげる。録画してあった『世界ふれあい街歩き』を観た後,以前,水越柚耶さんから頂戴していた森田季節(もりた・きせつ)の『プリンセス・ビター・マイ・スウィート』(ISBN:4840124981)を読み始める。デビュー作である『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』の設定を引きずっているので,前作を読んでいることが必要。
 第1章は,表紙を飾るヒロイン“チャチャ”との掛け合いで始まる。テンポ良く文章が繰り出されるので,導入部ではスッと物語に入っていける――ような気がしたのだが,第1章の終わりかけでリズムが乱れるような場面があって戸惑う。まず,チャチャという人物像が同定できてもいないうちに現れる人格が目まぐるしく入れ替わるし,第3の登場人物が風紀委員ちっくな役柄に似合わぬ台詞を突然吐く……  
 読み進めていくと,この《困惑》は作者の企図したものだろうということが分かってきます。振り返って見てみれば作品の演出効果としてはプラス評価に貢献する箇所ですが,文章の流れという点ではマイナス評価が少し入るかな。
 少々力業で結末に持っていく性向があるのは前作から変わっておりませんが,前作よりも尖った(気負った)ところが抑えられているぶん,作品全体としての精度は向上しているように思われました。ただ,結末についてはどうだろう? 後味爽やかで,読み物としてはこれで十分なのだけれど,良く良く考えてみたら問題状況は何も好転していないような……