西尾維新 『難民探偵』

 原稿の査読待ちで少し時間ができたので,西尾維新の新刊『難民探偵』(ISBN:4062159414)を読む。
 〈序章〉で誘爆して誤爆。お仕事探しをしている人は不用意に読んでしまわないよう気をつけましょう(泣)
 さて,語り手の証子(しょうこ)は24歳。大学在学中に就職先が見つからず無職。西尾維新の作品で,語り手が異能者ではないという設定そのものが珍しいように思う。そんな彼女が生活苦から批難した先である叔父宅で「難民探偵」との遭遇が発生。その正体,ネタバレになるから伏せておこうと思ったのに,今ふと手元を見たら帯にしっかり書いてあったよ……。初心貫徹で伏せておくことにします。ともあれ,とある背景事情を持って身をやつしているという設定になっているのですが,探偵小説が機能しづらくなったとされる現代において〈探偵〉を登場させるレトリックとしては上手いと感じました。
 最終章,探偵が関係者を集めて推理を開陳するハズのあたりになって不安になる。左手側にある紙幅――残りページが少なすぎるのです。どうするのだろう? と思っていたら……
 トリック(らしきもの)は上手く決めているのですが,どうもスッキリしない読後感。「〜らしさ」などという言い草は読み手の勝手だと承知しつつも,「西尾維新ならでは」という評価要素がさして見当たらない。お得意の言葉の応酬もあるにはあるのですが,本作ではストーリーの方が前面に出ているし。《世界シリーズ》のように全力で後ろ向きなわけでもなし。推理小説のコード(お約束)の枠内でうそぶいているのであって,フレームそのものを揺さぶる素振りもない。ミステリーとしては十分なのでけなす必要など無いのだけれど,肩すかしにあった身としては作者に向かって苦言でも呈しておかないと収まらない(笑)