綾辻行人 『Another』

 先日から綾辻行人(あやつじ・ゆきと)『Another(アナザー)』(ISBN:4048740032)を読み始めていたのですが,ハードカバー製本680頁は寝転びながら読むには重すぎる。この手の作品は夜になってから読んだ方が面白いのだけれど,腕に負担がかかって読み続けられないのでは致し方ない。座卓の上に本を置いて,今度は一気に読了。
 私にとっての綾辻は,17歳のときに初めて自覚的に読んだ推理小説。『人形館の殺人』が最初だったように記憶している。そのような経緯もあって綾辻といえば「ミステリー+奇譚」という印象が刻まれているのですが,本作『Another』では,最初に綾辻に接したときの感覚を思い起こしました。
 舞台はとある田舎の町。父親の仕事の都合で祖父母の家へ身を寄せることになった少年は,転校初日となるはずの日に肺の病を発して入院することに。月があけて5月,夜見北中学校へと登校した少年は,病院で出会ったことのある眼帯少女メイと一緒のクラスになる。ところが級友達の振る舞いはぎこちない。やがて少年は,3年3組にまつわる怪談があると知り――
 本書は2部構成をとり,前半には“What? Why?”,後半は“How? Who?”との副題が添えられている。読み終えてみれば,前半におけるホラーとしての面白さが圧巻であった。いったい何が起こっているのか分からない,という緊張感。このぞわぞわとした感触は『ひぐらしのなく頃に』以来,久しく味わっていなかったもの。ミステリーとホラーの融合ということでいえば『暗黒館の殺人』でも試みられていましたが,本作の方が優れた出来映えではなかろうか。
 後半になるとミステリーとしての読みの方が先立ちます。帯には

十角館の殺人』から22年。

と記されているのですが,むしろ『人形館』から20年と言うべきではないか,との読後感を得ました。