深川栄洋監督 『半分の月がのぼる空』

 最後に,人によってはネタバレになる発言があります。
 朝,出勤前に新聞を読んでいて,映画『半分の月がのぼる空』の上映が始まっていることを知りました。で,たまたま今日は割引の日。仕事の後に行けば間に合いそうだったので,夕方の上映を観てきました。急に観に行くことにしたため先行情報に全く触れていない,スタッフもキャストも知らない状態で。
 ちなみに,橋本紡の原作は(記憶に寄れば)第4巻まで読んでます。アニメ版は,舞台探訪の史料調査をした際に第1話を観て「背景として,再現度はアマイ。」というのを確認するまではしました。
半分の月がのぼる空―looking up at the half‐moon (電撃文庫)
 前半は原作第1巻のストーリーライン,すなわち「砲台山」のエピソードをなぞります。ただし《引用》については,第2巻で使われている『銀河鉄道の夜』に差し替えで核心に近づきやすくしています。「コレクション」は登場しないし,亜希子さんの「過去」についても登場しません。
半分の月がのぼる空〈4〉 grabbing at the half-moon  (電撃文庫)
 キャスティングに関してですが,「里香」を最初に画面で見た時,大人び過ぎているのではないか,と思ったのです。大泉洋を「夏目医師」にあててニヒルになるのだろうか,とも。しかしながら見終わってみると,この配役だからこそ出来上がった作品であると納得しました。
 最近では一般文芸に転出している橋本紡ですが,ライトノベルとしての『半月』から物語の骨格だけを取りだしてメロドラマとしての『半月』を再構成したらこうなるよね,という模範的構造。恋愛+青春+医療ものというジャンル特性に逆らわず手堅い。実写版を作ると聞いた時には『最終兵器彼女』のようになってしまうのではないかと危惧したものですが,実に真っ当。
 ただ,物語の半ばを過ぎたところで“原作読者”であれば医師・夏目吾郎の位置づけに関して違和を感じるようになります。映画の後半は,原作で言えば第4巻のエピソードがベースになっているのですが―― あれ,この人物は誰だっけ? となってから映画独自の物語が紡がれます。

 それぞれの想いが向き合った時,物語は思いもよらない展開へと進む。
ストーリー紹介より引用

 後半は,原作を読み終えている人こそ楽しめる場面でありましょう。原作での展開は,夏目吾郎が亜希子に対して独白するという構造にすることで「里香と裕一の物語」としては露わになることを回避していました。それが,この映画版だと「里香と裕一と夏目医師,3人の物語」として描かれることになる。この意欲は買いたい。
 以下,放言。
 これ…… 実写版『CL△NNAD △FTER ST◎RY』と言っても過言ではないような気がします。