川田稔『昭和陸軍全史』

 第1巻の途中までを出張の移動中に読んでそのままになっていたのですが,2日間で全3巻を読了しました。
 本書の特質は,陸軍における戦略構想の変遷を内部抗争という視座から解き明かしているところ。永田鉄山を理論的指導者とする「一夕会」が満州事変の時期に実権を掌握していくが,日中戦争の拡大か不拡大をめぐる武藤章石原莞爾の意見対立も背景には永田の構想した軍需資源確保という命題があった。それがやがて,近衛内閣の時期に南方(東南アジア)の軍需資源を確保することでの自給体制確立を目指す国家構想となる。
 特に強調されるのは,日本が南方進出を目指したのは日中戦争の打開のためであるとする通説的理解に誤りがあること。すなわち,日本は自給経済の確立を目指して大東亜共栄圏構想を掲げ南方に進出したものであるが,アジアの英領植民地が奪われることになればドイツの攻勢にさらされているイギリスの存続は困難となり,イギリスが崩壊すればアメリカの安全保障を揺らぐことから開戦に至ったものであることを示している。
昭和陸軍全史 1 満州事変 (講談社現代新書) 昭和陸軍全史 2 日中戦争 (講談社現代新書) 昭和陸軍全史 3 太平洋戦争 (講談社現代新書)