『沈まぬ太陽』

沈まぬ太陽〈3〉御巣鷹山篇 (新潮文庫)
 山崎豊子沈まぬ太陽』の第3巻を読了。ある航空会社を舞台とする小説なのですが……
 これに先立つ第1巻と第2巻は、労働組合の委員長を10年間に渡って遠隔地へ配置転換するという不当労働行為*1 を題にとっています。この《アフリカ編》は、小倉寛太郎さんという方の生き様をモデルとしています。ところが第3巻《御巣鷹山編》でも主人公が引き継がれているんですよね。
 副題からおわかりになるように、単独機としては世界最悪となった航空機事故を取り上げています。丹念な取材に裏打ちされて書かれていますが、私には本作に向かう作者の態度が解せないのです。冒頭、次のような断りがあります。

 この作品は、多数の関係者を取材したもので、登場人物、各機関・組織なども事実に基き、小説的に再構成したものである。但し御巣鷹山事故に関しては、一部のご遺族と関係者を実名にさせて戴いたことを明記します。

これを読んで、どう思われるでしょうか。私は、「この作品は事実を描き出した話なのだな」と受け止められるほど、お人好しではありません。どうにも本作は、小説であることを隠れ蓑にして、都合良く事実を切り刻んでいるように思えてならないのです。このような注意書きを入れておけば、実在のものから非難の声があがった場合、「これは社会派小説だから」と言って逃げることが出来ます。小説であるということは、作者によって脚色され創作された箇所が多数存在しているということです。悪を糾弾することを作者が使命として、主人公・恩地元を正義の体現者として描くのもいい。そうした手法があることは私も認めるところです。しかし、この小説に登場する「国民航空」に対して読者が抱いた感情が、そのまま実在するあの航空会社へと向けられることは戒められるべきです。しかし、そのように冷静に読める人が全てではありません。こと本作第3巻に関する限り、小説的に再構成したと述べる山崎豊子の態度は私が感心するところのものではありませんでした。
 520+1名の御霊に安らかな眠りの訪れんことを。
cf.: http://www004.upp.so-net.ne.jp/civil_aviation/cadb/disaster/home56.htm
cf.: http://www.jalcrew.jp/jca/public/taiyou/ogura_history.htm
cf.: http://www.kokko-net.org/kokkororen/
cf.: http://dasoku.s6.xrea.com/?date=20030519
cf.: http://www.jca.apc.org/~yyoffice/69OguraKantarou-Owakarenokai.htm
cf.: http://www.kikanshi.co.jp/prior/dantai/ogura/p-ogura.htm
cf.: http://matuzawa.net/fin/today/book/book67.htm
cf.: http://www3.ocn.ne.jp/~ariyoshi/annex/book/taiyo.htm

*1:労働組合法 第7条 に違反する行為のこと。