呉智英 『現代マンガの全体像』

 呉智英(くれ・ともふさ)『現代マンガの全体像』(ISBN:4575710903)読了。
 著者は1946年生まれの評論家で,2005年4月には日本マンガ学会の会長に選出されている。
 本書は1986(昭和61)年に上梓されたもの*1。20年近く前に書かれたものであることが意義深い。本書によって本格的なマンガ評論の幕が開けたと言っても良い。マンガを論ずるにあたって参照しておくべき基本書の一つである。労作。
 しかしながら――いかんせん古い。
 第一部では先行する4人の論者をメッタ斬りにしているが,お世辞にも品があるとは言えない。なんというか,全共闘世代による人格攻撃アジテーションなんですよね。当時ならば必要だったのかもしれないけれど,今読むとアナクロ石子順に至っては,断罪されるべき最初の理由が「石子順造と酷似しているから」なのですが,それは批判になってない。著作の内容を検討して,評価すべきものでしょう。私は,[keyword:石子順]を作成するため大学の図書館にあった著作に目を通したのですが――黙殺される理由は良くわかりました。今となっては,それで足りるのでは?
http://www1.odn.ne.jp/kamiya-ta/kokorowosodateru-manga.html紙屋研究所
http://d.hatena.ne.jp/goito-mineral/20050715#p1伊藤剛氏)
気になるのは,ここでの議論の行方。紙屋研究所は「石子順的なるもの」として人的属性を排し,リスト化することについての議論へと純化していこうと試みている。それに対するトカトントニズムからの応答はこれから,というところ(上掲の文では正面から応じていない)。この《選ばれるべきものは何か》という問題提示は,本年の手塚治虫文化賞に際しての疑義*2と共通するもののように思います。この場合,選考委員であった呉智英は攻撃される立場に回るのですけれど。
 第二部では,1945年から86年までを5つに区分して時代状況を論じる。図らずも「手塚治虫の生きた時代」で終わってしまっているので,中野晴行マンガ産業論』等でその後の状況を追いかける必要があるだろう。気になるのは,少女マンガへの目配りが殆どなされていないこと。24年組への言及が僅かにあるだけなのである。本書から「乙女ちっく少女まんが」と,それに続く《内面性》を巡っての取り組み(1980年代)という波を掴むのは難しい*3
http://www.cuteplus.flop.jp/ncp/cpg16.html更科修一郎
 第三部は,20の作家論・作品論。マンガ評論の様式(フォーマット)を提示する。これは今読んでも,否,今読むからこそ面白い。

*1:なお,文庫化に際して追補が行われているが,大幅な変更はない。

*2:http://d.hatena.ne.jp/./goito-mineral/20050608#p1

*3:大塚英志教養としての〈まんが・アニメ〉』(ISBN:4061495534)第3章および第5章を参照。