迷宮都市ヴェネツィアを歩く

 陣内秀信(じんない・ひでのぶ)『迷宮都市ヴェネツィアを歩く』(2004年,ISBN:4047041688)を読む*1
 13のルートを設定し,海の都ヴェネツィアを歩いて巡る。実に魅惑的な著作。建築史家である著者が2年間に渡って住み着くことにより得られた体感的な知見が存分に織り込まれている。観光ガイドには,大抵,他の著作からの引用によって成り立っている部分があるものだが,本書にはそれがまったく無い。すべての言葉が著者の内側から湧いて出てきているため,瑞々しい。読むものを惹き付ける魅力に溢れている。
 著者が掲げるのは「都市のコンテクスト(文脈)」。土着的なものに注目し,都市の形成を〈時間〉と〈空間〉の両面から見事に描き出している。街角に置かれたマリア像,小路の曲がり方,橋の掛け方,教会の向き,広場に面した壁面――といった小さな観察を積み上げ,都市が生成していく様を物語る。
 ヴェネツィアを旅するなら,是非とも本書を携えていくべきだ。これほど話の達者な水先案内人は,そうそう見つかるものではない。

迷宮都市ヴェネツィアを歩く―カラー版 (角川oneテーマ21)

*1:1996年に刊行された『ヴェネツィア 光と陰の迷宮案内』(ISBN:4140052406)を加筆・改題したもの。