大学院はてな :: 精神性疾患罹患者の復職

 今日の研究会で議論の対象となった判例について。傷病を理由とする休職についてが私のデビュー論文でした*1。この論考を書いた2000年の時点では、裁判で争われていたのは身体障害についての事例しか見当たりませんでした。最高裁の打ち立てている枠組みを確認しておくと、「復職判定時に100%治癒していない場合、ただちに雇用契約を解約することは許されない。軽作業が出来る程度に快復しているのならば、その労働者にあった仕事がないかを探す努力をしなさい」というもの*2
 それが、精神性疾患にも話に広がってきたというのが今日の考察対象。独立行政法人N事件東京地裁判決・平成16年3月26日・労働判例876号56頁)での労働者は、パーソナリティ症候群で継続的に精神科医の診察を受けていた。休職前の就労状況をみると、単純軽作業しか担当できないうえに間違いが多く、職務遂行中に居眠りをしたり、起きていても着席していられないといったものであった。2年6か月ほど休職した後に復職が申し出られたが、使用者はこれを認めずに解雇。
 裁判所は、会社の判断を支持し、復職の請求を認めなかった。復職時に提出された医師の診断書によると、同僚と同程度の業務はこなせないばかりか、休職前に原告が行っていた軽作業をこなせるようになるまでにもリハビリが必要というものであった。私見も、裁判所の判断を支持。病気休職に入る前の時点でも軽減した作業を満足にこなせず、復職を希望した時点では原告労働者が従前行っていた能力も喪失していた。同一職種の労働者との比較に加え、当人の能力との比較においても二重に職務遂行能力を喪失していた状況に照らすと、普通解雇もやむなしと思われる。

*1:http://sowhat.magical.gr.jp/thesis/g_ronbun_01.html

*2:片山組事件・最一小判平成10年4月9日・労働判例736号15頁