大学院はてな :: 低所得者層への社会保険料賦課

 研究会にて,泉大津市介護保険条例事件(大阪地裁判決・平成17年6月28日『賃金と社会保障』1401号64頁)の検討。
 生活保護基準以下の収入しかない低所得者から介護保険料を徴収し,年金から天引きすることを定めた介護保険条例が,違憲・違法ではないとされた事例。
 理論的に興味深いのは,一般論の部分。「低所得者に保険料を賦課することが憲法25条に反するか」が争われている。裁判所は,次のように言う。

 個々の国民の生活水準は,現在の収入のみによって決まるものではなく,これまでに蓄積した資産等によっても大きく左右されるのであり,現時点で収入の少ない低所得者からも保険料を徴収すること自体が,直ちに憲法25条の趣旨に反するとは言えない。
もっとも,保険料の徴収により,生活保護法を含む他の法制度によって具体化されている国民の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を害することとなるにもかかわらず,保険料の負担を減免するなどの措置を講じていない場合には,法及び本件条例が憲法25条の趣旨に反すると評価せざるを得ない。

保険料負担について,このような憲法25条論は珍しい。
 結論としては請求棄却。確かにキャッシュフローとしての収入は老齢基礎年金のみで,年額40万余円である。しかし,兄弟から仕送りを受けていること,自宅である土地建物を所有していること,貯金が300万円余りあること,満期保険金が50万円程度の生命保険に入っていること――といった事情にある。それに対し,原告に課されていた保険料は年額2万1,910円であることからすると,「法及び本件条例を原告に適用する限りにおいて違憲であるということはできない」とした結論は妥当であろうか。
 関連するところでは,介護保険よりも保険料の額が大きい国民健康保険について減免処分が争われている「杉尾訴訟」*1が上告審にかかっているとのこと。最高裁では第三小法廷から大法廷へと回付されており,どのような判断が為されるのか注目されるところ。

*1:恒常的に生活が困窮している者について保険料の減免措置を定めていないことは国民健康保険法77条の解釈を誤っているとして,保険料賦課処分の取消し請求した訴え。【第一審】旭川地判・平成10年4月21日・判例時報1641号29頁,【控訴審】札幌高判・平成11年12月21日・判例時報1723号37頁。