スイス旅行記 (2/5)

Neuchatel

 まずは朝食。お国柄が出てくるのは、ここです。例えばスペインだと、ありません。観光客とか金持ち向けのところは併設のレストランで提供しますが、それは別料金。朝食は食べないか、カフェオレ(cafe con leche)だけと言う人が多いのです。でもスイスだと、朝食付きが基本みたい。
 地上階(日本でいう1階)にレストランがあって、部屋の鍵を見せると席に案内してくれました。あとはセルフサービス。置いてあるものは、アメリカンの珈琲、オレンジジュース、クロワッサン、黒パン、コーンフレークス2種、牛乳、ハム、ヨーグルト。とにかく、胃の容量の限界まで食べておく。この物価高の国で支出を抑えるための作戦です(笑)
 外出し、まず最初に観光案内所へ。郵便局と同じ建物にありますが、壁に「ようこそ」という垂れ幕が日本語で掲げられています。スペイン語はないのに……。でも、日本語の代わりに「来々熱烈的歓迎」とかだったりしたら悲しいかも。
 市内の交通について質問し、地図と時刻表をもらってきました。それから中心街へ行き、食料品店の営業時間を確認。この作業を怠ると、週末に食べ物がなくなるという事態になりますから。湖側に“COOP”、山側に“MIGROS”があったのですが……

  • Lundi(月) 13'15 - 18'30
  • Mardi(火) 08'00 - 18'30
  • Mercedi(水) 同上
  • Jeudi(木) 08'00 - 20'00
  • Vendredi(金) 07'30 - 18'30
  • Samedi(土) 07'30 - 17'00

 なんですか、この時間割は(汗) 両方とも同じだったので、べつに特定の店舗だけの変則的なものではないようです。スペインの「09'00-21'30、日祝休業」という単純明快さとはさとは比べるべくもありません。こんなところに国民性が出ていて面白い。とにかく、今日は17時までに買い物に来ないと、安く食品調達は出来ないわけだ。

La Chaux-de-Fonds

 11時11分発の列車に乗り、30分ほどでラ・ショウ・ド・フォン(La Chaux-de-Fonds)へ。フランスとの国境に程近いところにあり、ヌーシャテルからは山を越えたところにあるのですが、人口37,200人とヌーシャテル州で2番目に大きい都市です。戦災の被害を受けて街を作り直したこともあって、直線的な道路などに近代的な雰囲気を感じます。
 スイスの精密機械、とくに時計産業は有名ですが、ここラ・ショードフォンがその中心地なのです。歴史を遡ると、16世紀の宗教改革によって迫害を受けたフランスの新教徒(ユグノー)がスイスの山間部に逃げ込んできたのだそうです。その中の職人たちが、山の中でも製作することができ、かつ、質素を旨とするプロテスタントの教義にかなう物として時計を作りはじめたのだとか。ちなみに、ジュネーヴのあたりからフランスとの国境線に沿って伸びるのがジュラ山脈。恐竜で知られる「ジュラ紀」の語源となったのが、アンモナイトが採掘されるというこの辺り一帯の山なのです。もっとも、山脈と言ってもなだらかで、稜線は柔らかでした。
 さて、駅を出て、“Musees”の示す方向に従って右へと道を取り、線路づたいに5分ほど歩くと目指す国際時計博物館(Musee International d'Horlogerie)があります。ここでは17世紀頃に作られた時計塔のための装置や、王侯貴族向けの装飾時計、時計作りの道具などが展示されています。ディスプレイの仕方が美しく、素敵な空間でした。奥の方には現代の高級腕時計も展示されていましたが、歴史的な逸品を見てしまうと虚しくみえます。筆者が腕時計というものを嫌っていて、6,000円の懐中時計を愛用しているというのもありますが…… どうしてみんな、自分の腕に「時間」を縛り付けようとするんでしょう?
 駅の横にあった“MIGROS”で、キャロット・ジュースとビスケットを購入。これを昼食にしようというわけだ。経験上、ニンジンを含む飲料は腹持ちが良いうえに、体調も向上します。

Les Geneveys-sur-Coffrane

 13時16分発の列車に乗り、ヌーシャテル方面へ。車窓を眺めていたら、中間点のレ=ジュヌヴェ=シュル=コフラーヌ(Les Geneveys-sur-Coffrane)の景色が美しかったので、たまらず途中下車。たぶん人口3,000人程度の小村だと思います。ジュラ山脈のど真ん中にあたる地域で、静かな高原です。雨に煙る地平線が。それでも駅のすぐそばにホテル(Hotel des Communes)がありました。列車は1時間おきにやって来るので不便極まりないというわけではなさそうですから、こんなところに宿を取って保養してみるのも楽しそう。
 スイスに限らず、ヨーロッパの鉄道には入場時の改札がありません。さて、スイス国鉄の場合、途中下車ができるのでしょうか? 罰金をとられるよりはいいや、と片道切符を追加購入したのですけれど、これ、必要だったんだろうか。

Neuchatel

 ヌーシャテルへ戻り、まずは買い出しに。スーパーマーケットだと、食品が安く手に入ります。明日の夕食まで質素に食いつなぐことにしたので、必要なものを仕入れておきます。
 その後、日没まで気の向くままに市街地を散策。12世紀に創建されたという参事会教会 (コレジアル教会)(Eglise Collegiale)、教会への向かう道沿いにある時計塔(Tour de Diesse)などをめぐってのんびり歩きます。こじんまりした街なので見所と呼べるものは少ないのですが、そのぶん街角の光景に目をやることができます。古くからの建物は黄褐色の岩石で建てられていることから、アレクサンドル=デュマはこの街を表して「バターの固まりをくり抜いた」と述べたのだとか。
 さて、日も暮れてきたので帰ろうとしたところ、まずいことに気づきました。お酒を買い忘れていたのです! しかも先ほど、地元ヌーシャテル産のカマンベールを買い、室温で寝かせてあります。これは、同じく地元産の白ワインでいただかなくては旅の醍醐味に欠けるというか、チーズさんに失礼にあたるというものです。飲まない人には問題の重要性がわからないかもしれませんが……
 この時間になると、開いている店は駅構内のものしかなさそう。薄暗くなってきた中、坂道を昇って買いに行ってきました。そうして軽い夕食となったわけですが、あまりにも上質なカマンベールで、ワインが無くてはきついくらいでした。手触りは、白カビがふかふかとしていて、まるでつきたての草餅みたいなの〜 はにゃ〜ん(*><*)

au revoir

 ヨーロッパは「常識」が通じるので、言葉がわからなくても何とかなります。以前、モロッコに行ったときは「常識」が通用しなくて大変でしたけれど(絨毯屋に押し込められた時は、生きて帰れるか不安になった)。ただ、最低限のあいさつは現地の言葉で交わすのが礼儀でしょう。
 ただ、『さようなら』のつもりで“Adieu/アデュー”と言ってみたら、微妙におかしな顔をされる。スペイン語の“Adios/アディオス”とは、語源が同じでも使い方が違うみたい。出発前に購入しておいた英仏辞書を調べてみると、“Au revoir/オゥルヴォワ”と言うのでした。
 でも、どうして「アデュー」なんていう単語を知っていたのだろう――と思って調べてみたら、「○ー○ー○ー○」の決め台詞でした(笑) おかしいなぁ、“R”は最初の回の途中で見る気を喪失して放棄したはずなのに。
 ちなみに、他に使った単語は、「メルシ」、「シルブプレ」、「ボンジュール」、「ボンソワール」で、合計5個。これでも個人旅行できてしまいました。
 言葉の使い方であれ?と思ったのは、「ボンジュール」から「ボンソワール」に切り替わる時点が最後までつかめませんでした。午前と午後なのかと思ったのですが、日没後でも「ボンジュール」と言われたことがあったし。
 ちなみにスペインでは、昼食前が「ブエノス・ディアス」、昼食後が「ブエナス・タルデス」。ただ、スペインの昼食時は14〜15時であるということを知らないといけません。