菜の花の沖 (1)

 司馬遼太郎菜の花の沖』第1巻(ISBN:4167105527)、読了。先日までバレンシアに住んでいた人が、退去の際に置いていったというものを借りてきました。18世紀後半(江戸中期)の商人、高田屋嘉兵衛を描いた歴史小説。全6巻。
【書評】
 第1巻は、淡路島の貧農の家に生まれた主人公が、如何にして海運業と関わるようになったかという生い立ちについて。灘の酒を乗せた樽廻船に乗り、初めて江戸(品川)へとくだるところまでの話です。面白かったのは、随所に出てくる産業構造についての説明。私、非常勤講師として専門学校で日本史の授業を担当したこともあるのですが、まったくもって理解不足でした。例えば、江戸幕府は米に依拠した政治体制であった、と言うのは簡単です。それを、

 秀吉の豊臣氏の直轄領は、後続の政権である徳川氏のそれの半分しかなかった。この一事でも、秀吉は政権を米でのみ成立させず、貿易でめしを食おうとしていたことがわかる。(199頁)

と一文で比較説明してしまうのは、お見事。
 それから、社会風俗。「若衆宿」という風習の中で、呼ばう*1ことすらも婚姻へと至る制度として組み込んでいた(79頁、119頁)というところには、大らかな性の意識が見て取れます。

*1:夜這い