Londres (2)

 滞在(実質)初日。
 08時20分、起床。軽く身支度をして朝食。カスウェル・ホテルはコンチネンタル・ブレックファストを提供――と書くとすごいもののように見えるが、要は「パンと飲み物」だけの食事ということ。ヨーロッパ大陸(Cintinental)では、朝は軽く済ませる人が多いので。スペインだと、朝食は付かないのが安い宿泊施設の標準になっているくらい。地階の食堂へ行き、席に着く。ほどなくメイドさんが希望を取りにきたので、トーストと紅茶を要望。さて、この英国におけるトーストというものは特筆に値する。日本には「主食」という概念があるため、「パン=米の代用」と考えてしまいがち。そのため、ふわふわした厚切りのパンを理想とする。コメと同じ食感を求めているわけ。あえてヨーロッパで主食に該当するものを探すと、それはスープかサラダの後に食べる2皿目、いわゆるメインディッシュの肉料理か魚料理のことであって、決してパンではないのです。よってヨーロッパでのパンは、日本の対極にあると言って良い。スペインだと、オリーブオイルで口の中がにごったのをサッパリさせるための口直しとして、パンをちょっと食べます。英国の場合、ジャムを乗せるための台としての役割を求められているのがパン。そのため、薄いけれど端を持っても曲がらない腰の強いものが好まれる。これがおいしいのです。このあたり、リンボウ先生こと林望氏の名著『イギリスはおいしい』の受け売りなので、興味を持たれたら是非読んでみてください。
 10時15分、バッキンガム宮殿(Backingham Palace)。ご存知、エリザベスII世女王陛下のお住まい。ふつーのロンドン観光だと、ここで衛兵の交代を見るのが山場なのだろうけれど、私は目的地へ向かう途中にたまたま通りがかっただけ。意外だったのは、思いの外に建物が小さい、そのうえ、たいして警備らしきものが行われていない。例えば霞ヶ関に行ってみてください。バリケードが組まれていたり、警察官が監視していたりしますから。それがバッキンガム宮殿だと、ものすごく警備が甘い。すぐ横が大きな道路になっているので、トラックにロケット弾でも積んで発射すれば簡単に命中させられるだろうという感じ(←実行するつもりはないですよ)。公園の中にある瀟洒(しょうしゃ)な建物といった趣で、堀に囲まれた皇居(江戸城)とは雰囲気が違いました。
http://www.royal.gov.uk/
 そのまま、ザ・マル(The Mall)を東進し、トラファルガー広場(Trafalgar Sq.)を抜け、ハー・マジェスティーズ・シアターで本日分の観覧券を購入。3階席(Grand Circle)のJ列7番が£(UKポンド)30。
 10時40分、ピカデリー・サーカス(Piccadily Circus)。札幌だと「すすきの」みたいな場所。ここにそびえるエロスの像(Eros)が『ハッピー・トーク』に登場するので撮影に来たのですが、どうして板で覆われているかな(汗) そこから北西方向のリージェント街(Regent St.)を眺めると、建物が優雅に曲線を描いています。これはクアドラント(The Quadrant)と称されており、これまた『ハッピー・トーク』に出ていたので撮影を継続。高級商店街になっているのですが、ユニクロも店を出していましたよ。で、あとで写真の撮影時刻を点検したら、30分近くエロスの像(とその周囲)を見ていたらしい。単行本を持っていって、周囲の建物と照合していたから…… ま、こういう努力の積み重ねが「岡野史佳作品の背景に描き込まれた風景のことならまかせて」という自負に結びつくわけで。第一人者を目指すということは、どんなに狭くてもいいから、他に誰も手を付けていない領域を探してしがみつくということだから。
http://www.capital-calling.com/london-areas/london/piccadilly.htm
 11時30分、すぐ近くにある「ジャパンセンター」を訪問。地階には日本食材、地上階には和食レストランに日本酒売り場、1階(=日本の2階)には書籍と、日本に関するものが揃っているお店です。文庫本でも買おうかと思ったのですが、ものすごく高いの(泣) たとえば白泉社の雑誌『LaLa』を例に挙げると、日本だと390円の品が£5.5(1,100円)。これでは、おいそれと買えないですよ。でも「欲しいものがそこにある」というのは、精神の安定にどれほど素晴らしいことか。空腹は最高のソースと言いますが、モノに対する飢えを抱いた今のスペイン暮らしが、手に入れる喜びを増幅させているような気がします。結局、ここは品揃えを観察して退出。
http://www.japancentre.com/
 11時50分、地下鉄でバンク(Bank)駅へ移動。ここも『ハッピー・トーク』に出てきます。このあとしばらく、作品に出てきた場所巡りが続きますので(^^; 微妙に作中で描かれていたものと違っているのですが、イングランド銀行博物館(Bank of England Museum)に飾られていた改築前の写真を見て間違いないことを確認。昔のコインや紙幣が陳列されていて、なかなか楽しいです。
http://www.bankofengland.co.uk/
 13時12分、テムズ川左岸を散策し、ロンドン橋(London Bridge)へ。頑丈で、ぜんぜん落ちそうにないです(←脳内で音楽再生中)。1973年に掛け替えてしまったらしい。作中ではデイジー嬢がこの近辺に住んでいたのですが、まったく100年前の面影はありませんでした。東京で大正時代を探すのが難しいのと同じように。
 13時52分、ラドゲート・サーカス(Lufgate Circus)、ファーリンドン街(Farringdon St.)、フリート街 (Fleet St.)。この辺りは、デイジー嬢に惚れた人でないと無意味なところなので省略。
 14時35分、コヴェント・ガーデン (Covent Garden)。『マイ・フェア・レディ』で、花売りのイライザがヒギンズ教授と出会った青果市場――というのが表向きの説明で、私の訪問目的は同上。今では小物屋さんが並ぶ商店街になっています。「パッヘルベルのカノン」が聴こえてきたので行ってみたら、流しの音楽家が四重奏をかなでていて、それが様になる小洒落た場所でした。
http://www.covent-garden.co.uk/
 15時05分、ロンドン交通博物館(London Transport Museum)。ロンドンの文化施設は多くが入場無料なのですが、ここは£4.5(学生割引)。乗合馬車や鉄道が保存されているところなのですが、ちょっと期待はずれ。というのも1つ1つが大きく場所を取るため、全体として展示物の数が少ないのですよ。それを写真や地図のパネル展示で補うことをしていないのが、物足りない原因かな。
http://www.ltmuseum.co.uk/
 15時30分に博物館を出たら、すでに日は西に。だいぶ冷えてきて屋外をまわるのは望ましくない。ということで、
 16時18分、べーカー街。世界で最も知られた住所に事務所を構える、世界で最も高名な探偵シャーロック=ホームズ氏を訪ねました。あいにく氏は御不在だったのですが、右隣の扉で警備にあたっていた警官の取り計らいで中に入れてもらい(£6)、暖炉の前でぬくぬくしていたワトソン博士と面会してきました。“Baker St.”のあとに続くべき地番を知っている人なら、行ってみて損はない所ですよ。あ、ベーカー・ストリート駅前の路上にはホームズ氏の銅像があるので、ついそちらの方向に行ってしまうのですが、像があるのはマリルボルン・ロードなので要注意です。
http://www.sherlock-holmes.co.uk/
 シャーロック・ホームズ博物館(Sherlock Holmes Museum)の地上階では、かわいくてはにゃ〜ん☆なメイドさん(たぶんシャルロッテ)が店番をしていたのですが、そこで“Sherlock Holmes in London ”という本*1を見つけ、狂喜乱舞。£30(=6,000円)と少々値が張りましたが、1879年から1914年にかけて撮影されたセピア色の写真が多数収録されています。これは、ヴィクトリア期の社会文化に興味を持つ者なら、買わなければ後悔するという逸品。ホテルに戻って仔細に眺めたら、どうもこれは『ハッピー・トーク』の背景資料と同じものを載せているみたい。だって「乗合馬車の御者の鞭の角度」や「荷台に乗っている樽の数」まで同じなんですもの(笑)
 いったんホテルに戻って荷物を置き、19時10分、再びハー・マジェスティーズ・シアター(Her Majesty's Theatre)へ。演目はミュージカル“The Phantom of the Opera”――『オペラ座の怪人』です。筋立てを知っている方が楽しめますからね。もう、素晴らしいの一言。人間の声が、いかに美しい音楽を奏でられるかを堪能してきました。「中の下」の席でもJPY換算6,000円するのですが、役者31人に加え、ピットにはオーケストラが、見えないところにも裏方がいます。満足度は十分すぎるほどありました。
http://www.thephantomoftheopera.com/
http://www.officiallondontheatre/