菜の花の沖 (4)

 司馬遼太郎菜の花の沖』第4巻(ISBN:4167105551)、読了。
【書評】
 前半は、高田屋嘉兵衛がエトロフ(択捉島)へと渡る航路を開拓するあたりで足踏み。当時のロシアがとっていた外交政策に力が注がれています。1874年にロシアとの交渉にあたった榎本武揚の略歴(150-152頁)と、領有をめぐるロシア(=ヨーロッパ=ローマ法)と日本(=中華=冊封)との論理の違い(160頁)に関するくだりが興味深かった程度。先住民族がいる土地の領有問題については、星野道夫が『ノーザンライツ』(ISBN:4101295220)所収の「アラスカはいったい誰のもの」でも触れているが、米国では1980年まで未解決だったのである。決して昔話ではない。
 後半、嘉兵衛はエトロフに住む蝦夷*1 との関わりを深めていく。幕府の側の思惑には、クナシリ/エトロフの蝦夷人たちの暮らしを豊かにし、ロシアになびかぬようにする(236頁)ことがあったとか。鎖国をしているということは条約を結ぶことは出来ないということであり、外交政策によって乗り切る道はない。加えて、当時の日本はヨーロッパ的な法制度に従っていない。しかし、隣接するウルップ島までロシアの勢力が及んでおり、差し迫った状況下にある。
 蝦夷地を委ねられた幕臣たちの動きが興味深い。というのも、江戸中期の武士は事なかれ主義。急変する事態に対処できる人材が少なかったであろう中で、抜てきされた人物が光っていた。

*1:いわゆるアイヌ