細雪 (2)

 「細雪(ささめゆき)」《中巻》読了(新潮文庫ISBN:4101005133)。
 この巻は、四女・妙子を中心に物語は展開される。中巻の冒頭部は、1938年に実際にあった大水害に沿っている*1。妙子は洋裁学校に居たところ、この災害に遭遇したのだが、救助に馳せ参じた写真屋・板倉に助けられる。この出来事がきっかけとなり、妙子の想いは、かつて駆け落ちしたことのある相手・奥畑から板倉へと移っていく。しかし、板倉は貧農の出で、奉公人あがりであるから家の格が釣り合わない、と姉たちは反対する――
 ここで注解の「自由結婚」を引きます。曰く「父母の同意を得ないでする結婚。戦前の民法では、男子は30歳、女子は25歳に達すると、父母の同意なしに結婚することも出来た。が、親の意思に背くことは、すべて親不幸であり、道徳的な非難の対象になった」。昭和元年の流行語であったとありますから、その頃から価値観が揺らぎつつあったということでしょう。
 妙子は、新しい社会世相の体現です。時代が下り、自由結婚が一般化してしまった今日の目から見ると、珍奇な遣り取りに見えます。しかし作品が世に出た当時は、職を身につけ自立しようとする女性に対しては、批判的な声も多かったであろうことが察せられます。
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*1:以下、細江光による注解を引用する。「昭和13年7月5日、神戸市内の山津波をはじめ、阪神地方に大きな被害をあたえた大水害のこと。3日から5日にかけて600mmを越える豪雨が降り、そのため河川の氾濫・堤防の決潰が相次いで、死者200人、行方不明者400人の犠牲者が出た。」