フリーターという生き方

 若年者社会保障に関する研究会の準備。2冊目は、小杉礼子フリーターという生き方』(ISBN:4326652764、2003年)。著者は、労働政策研究・研修機構*1 の研究員。
 本書の趣旨は、帯に書かれた

まず事実を正しくつかもう。
議論はそれからだ。

という言葉に良く表れている。統計資料やアンケート調査をふんだんに用いて、フリーターの実態を克明に描き出している。
 分析結果の提示という姿勢に終始しているため持論の展開は差し控えられているが、著者はフリーターという生き方に対して、3つの理由から危惧の念を抱いていることが読みとれる。
 まず第1に、フリーターという就業形態は、職業能力を高めることは出来ないものであること。知識・技能を求められていないし、OJTの機会も与えられない。
 第2に、フリーターである人達の中には「やりたいことを探す」という《夢》を語るグループがある。芸能・芸術方面に多い、最初から「やりたいことがある」グループと区別する。そして、フリーターという働き方を通じて「やりたいこと」を見つけることは困難であることを、フリーターから典型雇用(いわゆる正社員)に転じた人たちへの聞き取り調査から明らかにしている。
 第3に、いざ典型雇用(正社員)に転じようとした時、それまでのフリーターとしての生き方が採用や賃金に反映されるものではないということ。むしろ、2年以上に渡ってフリーターであることは、マイナスの側面が強いことを指摘する。
 若者のキャリア形成という観点からフリーターという選択に再考を促す内容となっている。本書は、この問題を論じるうえで、第一級の資料であろう。

*1:旧・労働省関連の独立行政法人。通称、JIL。労働関係の政策立案を支えるブレーン集団である。
http://www.jil.go.jp/