東大生はバカになったか
立花隆『東大生はバカになったか 知的亡国論+現代教養論』(ISBN:4167330164)読了。
著者が東京大学で3年間に渡り講師をしていた時期の前後に、同大学に近い場で発言したもの。挑発的な題名であるが、東大生をこきおろすのが目的ではない(機能としてはそうであるにせよ)。というのも、立花氏の理想に照らせば、【1】日本の大学(生)は、明治時代における出発の時点からすでにバカであった、となるからである。
曰く、そもそも大学というものはリベラル・アーツ*1 を修養するためのものであるべきで、アメリカ合衆国のように4年間すべてを《教養》に充当すべきだ、という。それに対して日本の大学は、明治時代に国家が主導して専門的職業教育*2 を担うことを目的として設置されたこと*3 を否定的に捉える。
さらに、【2】文部省(当時)が推し進めてきた「ゆとり教育」による学習内容の減少、【3】18歳人口が減少したことによる入試科目の削減*4 なども、当然に批判の対象である。その意味では、ここ十年ほどで大学生は相対的にバカになったということになり、その具体例として東京大学を挙げているに過ぎない。
立花が理想とするのは、中等教育に能力の高い教師を送りこむフランスのリセ(lycée)に、専門職業教育は学部卒業後に(大学院レヴェルで)展開する米国。つまるところ、現在の日本の方向性を反転させることを提案する。
とはいえ、『東京大学』は、日本という国家システムそのものである。東大を変えることは、日本を作り替えることに相当する大事業だろう(言い換えれば、東大が変わらない限り日本は変わらないと思う)。私は本書の理念には大いに共感するけれども、実現可能性には懐疑的である。著者には、実験として『タチバナ大学』を立ち上げてみてはもらえないものだろうか。
▼ 知的亡国論(第Ⅰ部として本書に収載)
http://www.ttbooks.com/boukoku/chapter1/boukoku.html