少女まんがの系譜

 二上洋一(ふたがみ・ひろかず)『少女まんがの系譜』(ISBN:4901978578*1読了。
 著者は1937年生まれ。集英社で少女まんが誌の編集に携わってきた人物。本書では、昭和7年田河水泡によって少女まんがが誕生したと捉え、その後の60年間に渡る系譜を辿る。基本は編年体。○○年に××が△△を描いた――という平板な記述が連なる。時代を約10年単位で区切って章立てし、各章の冒頭で2〜3頁ほどの叙述を挟んでいるが、大したことは言っていない。
 失礼を承知で申し上げる。あまり出来の良くない本だと思う。
 少なくとも私は、途中に織り込まれた作家論に価値を感じない*2。評論としての質は劣る。編年体の部分についても、著者本人の言葉で語られているのは、著者と関わりのあった作家にまつわる「こぼれ話」の域を出ないものが多い。
 要は、お歳を召された方の追憶なのだ。「あの頃には、こんなことがあってねぇ」という。系譜を辿るということなら、巻末に掲げられたヤマダトモコ氏による『少女まんが作品年表』の方に価値がある。
 ただ、本書に価値を見いだせないというのは、現時点における私の評価でしかないのかもしれない(これが最大限の譲歩)。本書を出版した意図を、著者自身は次のように述べている。

 本来、この稿の目的は、手許に集まっている資料が散逸する前に、一冊にまとめておいたら、後代の研究者の小さな一助になるのではないかと考えたのと、ああ、あの時代にはこんな作品があったのかと思い出す縁(よすが)になれば幸いという軽い気分で始めたことに過ぎなかったのです。
(“おわりに”より引用)

つまり、少女まんがの『ユーカラ』を目指したのでしょう。古老が自ら筆を取り、記録として書き留めたもの。本書に価値が出てくるとすれば、口承できる語り部死に絶えた後になってからだと思う。
 本書は「昭和の後半に活動した漫画編集者が同時代的に少女まんがをどう見ていたのか」を推測するための一次資料。将来、少女まんが評論を志そうと思っているものが手許に置いておき、必要に応じて必要な箇所を参照するのが精々だろう。逆に言えば、そうした研究欲に欠ける読者は、いつまで経っても本書に価値を見いだせそうにない。
 興味深いことに、本書には図版が1枚もない。作品論ないし作家論として記したのであれば、引用するのが自然なところなのに……。きっと著者は、二上洋一についての回想録を書いたのだ。そう思えば、合点がいく。


▼ おとなり書評

著者はもうすぐ70歳になろうとする、元・集英社編集者のかたですが、何のための本なのか、よくわからん。結局、ヤマダトモコ作成の労作(中略)、少女マンガ作品年表だけが役に立つという、困った本です。
http://mandanatsusin.cocolog-nifty.com/blog/2005/06/post_7b43.html漫棚通信

*1:ぺんぎん書房、2005年6月

*2:第5章「王道を奔る二人」で里中満智子一条ゆかり、第8章「感性の結晶」で内田善美くらもちふさこを取り上げている。