都市に刻まれた権力者像

 青柳正規(あおやぎ・まさのり)『皇帝達の都ローマ――都市に刻まれた権力者像』(ISBN:4121011007中公新書,1992年)。パリのホテルにて読了。

 カエサルの総合都市整備計画によって地中海帝国としての偉容をととのえたローマは、以降、歴代皇帝たちによって公共事業を施されるとともに、彼らの政治的意図を誇示するための大造営事業の場となった。永遠の都ローマの栄光は都市に刻みこまれていったのである。しかし、最強の軍隊、発展と拡大という豊かな国家としての理念が行き詰ったとき、新しい理念に向けて改造することは、歴史を推積してきたローマには不可能であった。
出版社の紹介文を引用

 カエサルが着手した〈永遠の都〉ローマの都市計画を,コンスタンティノープルへの遷都に至るまでの約400年間を記述する。
 著者は1944年生まれ。東京大学文学部の教授で,考古学と美術史が専門。そのせいか,やたらと文体が堅い。良く言えば手堅く信頼感があるのだが,悪く言えば躍動感に欠ける。人物史と建築史を織り交ぜて綴るのだが,どっちつかず。全体を貫くテーマが弱いので,あとがきで突如

 カエサル以来の都ローマの歴史が,建物と都市に刻印されていることを前提としてたどってきた本書は,その前提が正しかったことを,コンスタンティヌスによる遷都によって証明されるという皮肉にいま遭遇している。〔396頁〕

と言われても,そんな〈前提〉はどこで述べられていたっけ? ということになってしまう。悪い内容ではないのだが,とっつきにくい本。