無責任の構造

 岡本浩一(おかもと・こういち)『無責任の構造――モラル・ハザードへの知的戦略』(ISBN:4569614604,2001年)を読む。
 著者は社会心理学者。原子力安全委員会の委員を務める。本書は「バケツでウラン」ことJCO臨界事故の事故調査委員会の委員を委嘱」されるところから始まる。これを事例として,組織が必ず持つ〈無責任の構造〉を解き明かしていく。
 冒頭において,「いま 差し迫った状況に立っていて とり急ぎノウハウだけを読みたい」場合には中盤(第3章2)以降から読み始めると良い,と書かれてあったので指示に従ってみたが,ちっとも面白くない。「賃金のために仕事をしているのか!」という言葉が聞かれる職場は全体主義的風土がある,などと言われても,なんだかなぁという感じがする。
 これは駄作を買ってしまったかも,と思いつつ,戻って最初から読んでみると,印象が違う。前半の理論編(特に第2章「無責任をひきおこす集団のメカニズム」)はうってかわって面白い。例えば,「個人で意思決定した場合よりも集団で討議して決めた方が,より冒険的な選択を容易に選ぶ」という現象(リスキーシフト)の紹介などは興味深かった。
 筆者は,〈無責任の構造〉を克服するには,属人主義から属事主義へと発想を転換することが必要だと説く。しかし,そうなるとシステムの問題なので,組織の中の一個人として振る舞えることがあるかというと甚だ心許ない。うなずくところは多くても,活用しにくい本。
 労働法の問題としては,公益通報者保護法における「内部通報制度」に絡んでくるところ。参考文献に含めておこう。