小説 エマ〔2〕

 久美沙織(くみ・さおり)『小説 エマ』第2巻(ISBN:475772490X)を読む。
 第1巻を読んだときには引っかかりを感じ,やや否定的な論調で感想を述べました(id:genesis:20050403:p1)けれど,転向します。第2巻では,実に透き通った読後感を得る。
 原作では第2巻(ISBN:4757713126)で綴られる部分。ストーリーには手を加えず,セリフもそのまま。それなのに,久美沙織の作品へと見事な昇華を遂げている。

 タイトルにわざわざ「小説」とつけている辺りが、久美沙織の仕事への誇りを表している……
のかもしれません。
http://d.hatena.ne.jp/megyumi/20051107#p2

 例えば第八話「ひとり」。原作には,ただ一言の言葉も示されずに進む箇所が三回,各5頁ずつで合計15頁ある。ストウナー女史が天に召された後の様を淡々と描くことで静かに悲哀を醸し出す,マンガの醍醐味と言えるところ。ここに対して久美は,つぶさに解釈を行い,エマの独白として構成してみせる。本巻の見どころと言えよう。それはあたかも,お前は原作をどれほど丹念に読み込んだのか?――と読者に問いかけているかのような緻密さ。
 もっとも,これは逆の評価をも与えうる。例えば次のような意見。

 「エマ」はある意味では映画のシーンを抜き出して漫画にしているようなところがあって、その間の部分は想像で補うしかなかったりする(中略)のですが、逆にそれが持ち味であっただけに、それを補完する描写によって持ち味が壊されてしまったというか……
http://d.hatena.ne.jp/gmax/20051107/p2

 何しろ,肯定的に評価しようとしている私自身も,同じ見解を併せ持っている。負の方向に振れたのが第1巻についての感想に他ならない。言葉を冗長なまでに重ねていくことによりヴィクトリア朝の荘重な空気を紡ごう,というのが小説版『エマ』の特徴。好みが分かれて然るべきところ。今回は,原作で採った方針をなぞることを避け,森薫の〈呪縛〉を解き放とうとした久美沙織の心意気を高く買おうと思う。森と久美の手法はまったく正反対であるが,それぞれの最適解を導きだそうとしているのだから。