『ロシアについて』のはずが,宮崎アニメで『日本文化の基層を探る』へ

 司馬遼太郎『ロシアについて――北方の原形』(ISBN:4167105586)を読む。
 ソ連が崩壊する前の1986(昭和61)年に上梓されたものであるということに鑑みた時,序文において展開される〈領土問題を考える視点〉の冷静さに,司馬の才能を感じる。
――というのが法律家としての感想に相応しいのだろうけれど,面白かったのは傍論中の傍論。日本には弥生時代水田稲作が伝来したことに触れた部分。

堆肥と燃料をとるために山に入り,落葉や下草を採って,林間を座敷のように掃除しつづけた。このため,それまで一般に照葉樹林だった日本の山林は,落葉の堆積をうしなって栄養不足になり,かわって松という痩地を好む樹にとってかわられた。(126頁)

 本当にそうなのか? という疑問を持ったので調べていたら,次のような評論を見つけた*1縄文時代的な狩猟採集を内容とするナラ林文化と,鉄器と稲作によって代表される照葉樹林文化との対比によって宮崎駿作品を分析しようとするもの。

もののけ姫』は、ナラ林文化圏の蝦夷の少年と、照葉樹林文化圏の森林で育った少女が出会う物語である。少年と少女の出会いは、日本人の源流である二つの森林文化の出会いを描いたものでもあるのだ。
http://ghibli-fc.net/rabo/monoke_yo/yomitoku04.html

 ここで言及されているのは,佐々木高明『日本文化の基層を探る』(ISBN:4140016671)ですね*2
 さて,明日は公務員試験予備校で地理学(気候区分・土壌・植生)の講義をしてきます。余計なことを話さないように気をつけなくては(笑)

*1:叶精二「『もののけ姫』を読み解く」『別冊 COMIC BOX vol.2』(1997年,ふゅーじょんぷろだくと) Chapter 3「古代日本の森の文化」所収
http://www.comicbox.co.jp/cbmnnk/cbmnnk.html

*2:調べるという行為そのものが好きな体質だと,このような経過を辿っていくうちに,最初の目的を忘れてしまうことが間々ある。