京極夏彦 『塗仏の宴』
一念発起して,京極夏彦(きょうごく・なつひこ)『塗仏(ぬりぼとけ)の宴(うたげ)』を読む。本棚の中に1年近く「あった」のに,そのあまりの分厚さ故に恐れをなし,意識的に「見ない」ようにしていたもの。上巻*1と下巻*2を重ね合わせると7cmにも達する。読書中,両手で支えていたのに,あまりの重量に指がつりかけた……。
20名近くにも達する登場人物を駆使して綿密に伏線を張り巡らせ,一点へと収束させていく構成は見事。ただ,複雑すぎて把握しきれないのだが。
長大さについてはさておき――。
妖怪についての蘊蓄があちこちで披露される。無関係な話のように思えるのに次第に主題へと絡んでくる,という京極堂シリーズの魅力は存分に楽しんだ。
だが,筋立てに関わるところでは,黒幕の行動原理についてが釈然としない。それほどまでのエネルギーを注ぎ込んでまで,やりたかったことなのかなぁと。
何にも増して得心がいかなかったのは〈記憶〉の書き換えについて。この物語おいて〈記憶〉は確固たるものではない。他の作品だと〈記憶〉が信頼の置けないものであることを指摘することはネタバレになってしまいかねないが,本作の場合は〈記憶〉が差し替え可能であることを示したその後が本題。What happened? が問われているわけだけれど,Why done it? と How done it? に無理があるために,どうにもスッキリしない。
*1:「宴の支度」 新書版:ISBN:4061820028,文庫版:ISBN:4062738384
*2:「宴の始末」 新書版:ISBN:4061820338,文庫版:ISBN:4062738597