高殿円 『カーリー』

 高殿円(たかどの・まどか)『カーリー 〜黄金の尖塔の国とあひると小公女〜』(ISBN:4757726619)読了。まいじゃー推進委員会id:tonbo)のご推薦です*1
 時は1939年の夏,ところは英国支配下北インドにある藩王国パンダリーコット。シャーロット(表紙右の金髪くしゅくしゅ少女)は,当地で駐在大使を務める父からの招来を受けてロンドンを離れ,インドへと渡航して海沿いの街にある寄宿学校に入学する。同室となったのは,オニキスの様に黒い瞳を持つカーリー(表紙左)。二つの民族の間に生まれ,流血の女神の名を与えられたカーリーからインド独立に懸ける思いを聞かされ,シャーロットは社会へと目を向けていく。
 前半は,赤毛で縦ロールのいじわるお嬢様ヴェロニカ,取り巻きの双子姉妹,厳粛な院長先生,秘かに主人公たちを支える奉公人の少年,それに〈真夜中のお茶会〉など,数々のオマージュが散りばめられる。

ずーっとずーっとやりたかったんですよ。
昔、大好きだったハウス名作劇場
(中略)
世界名作劇場
アニメで復活しないなら自分で書いてやる!
と、一大決心してできあがったのが、これです。
http://akusyumi.blog59.fc2.com/blog-entry-8.html

この作者の言で,コンセプトは説明できるでしょう。開始段階での主人公シャーロットは,フランシス・ホジソン・バーネットによる『小公女』にあこがれる妄想娘。初期設定の展開にかける紙幅が,わずか145頁に抑えられてしまっていることが本書の難点だろうか。「キャラクターが立つ」前に,次章に繋がる出来事――すなわち,隣家に住む住人との遭遇が起こってしまう。ノベルゲームで言うところの〈日常パート〉に当たる描写が最小限にも満たないほどに切りつめられてしまっているために,情景の描写が著しく弱い。加えて,あともう少し感情表現がていねいに描写されていれば,もっと繊細な仕上がりになったろうに……。舞台設定はなかなかに魅力的であるだけに,何とも惜しまれるところ。

できれば寄宿舎の中の話をもっと書いてくれると嬉しいんだけど……。
http://www.booklines.net/archives/4757726619.php

 中盤以降についての詳しいことは伏せておくが,砂糖菓子のような学園百合物語には似つかわしくないキナ臭い実在の人物達が,間接的ながら役回りを持たされて登場する。リッベントロップとか。地理的・歴史的な位置づけを特定して示すことにより,ファンタジーとフィクションを兼ね備えた作品となっている。
 本作は約310頁で構成されている。ところが,本書全体で「第一話」なのだ。作者は続刊を出す気が満々らしい。先に述べた私の不満は,続刊が出れば幾分か減じられるものと期待する。
 ところで初版の帯には,

高殿円×椋本夏夜が贈る
珠玉のヴィクトリアン・ラブ・ストーリー
http://www.enterbrain.co.jp/fb/newbook/072/01/index.html

とあるけれど,これ,何でしょうね。ヴィクトリア女王の在位は1837〜1901年だし。時期ではなく様式?

1900年代中期だから、ヴィクトリア時代じゃないんじゃ・・という突っ込みは無しで(^^;
http://d.hatena.ne.jp/binbin530/20060330/p1