森博嗣 『迷宮百年の睡魔』

 森博嗣(もり・ひろし)『迷宮百年の睡魔*1読了。
 前作『女王の百年密室』もそうだったが,何とも奇妙な話。〈近未来〉を描いた作品は,〈現在〉の価値観なり技術的限界を踏まえて作られたものでないとリアリティが感じられなくなってしまうのだなぁと思う*2。このシリーズは,近未来を近未来の視点で書いている。良く言えば,執筆時における人間の認識能力を乗り越えたところで生まれる浮遊感がある(悪く言えば,リアリティの取っ掛かりが乏しい)。

*1:新書判:ISBN:4104610011幻冬舎文庫版:ISBN:4344009177,新町文庫版:ISBN:4101394334

*2:例えば2015年を舞台とする1995年製作の作品『新世紀エヴァンゲリオン』においては,入退管理システムは磁気カードを利用していた。10年が経った今ならば,ICカードを用いた非接触型の認証システムが当たり前のように普及している。新しさを伝えるには虹彩などを用いた生体認証あたりを登場させるだろう。でも,1990年代の中葉にバイオメトリクス認証を描いてみても,当時はリアリティに結びつかなかっただろうと思う。