桜庭一樹 『少女には向かない職業』

 だいぶ前に id:kuroyagisantara から借りたままになっていた本。来週には返そうと思い,寝しなに桜庭一樹(さくらば・かずき)『少女には向かない職業』(ISBN:4488017193)を読み始める。これが初の観桜。
 早くも第1章の冒頭(11頁)で,作者の人間観察力と内心の描写に感心する。

 このお調子者のおじさん教師は,話にオチをつけるときに必ず,あたしをだしにするのだ。あたしは教室でよくしゃべるし,友達も多いと思われてるし,かといって教師にキレたりしないし,なんとなく,ネタにしやすい生徒なのだ。たぶん。

この箇所を大多数の読者は生徒側の視点で読むと思うが,教師側からすれば実に身につまされる話(私は教諭歴が既に16年に達していたりするのですが,駆け出しの頃にはネタにした生徒に泣かれそうになったこともあるん)。
 主人公は,中学2年生の少女。漁業によって成り立つ島で,高校へ通うためには橋の渡って本土へ行かなければならない。彼女らのいる場所の地理的隔絶感が,〈クラスメイトに対して見せる表象的人格=俯瞰される見せかけの私〉と〈ト書きで綴られる内面=本当の私だと思っているもの〉との乖離を描き出すうえで,巧妙に作用している。不安と不吉,悪意に殺意,承認と拒絶。
 ふわふわなどろどろを紡ぐ,奇妙なまでに透明な筆致。薄暗い心の暗部を覗いているというのに,抵抗感無く読み進められる。不思議なことに,彼女達の姿が読む私の中で像を結ばない。まさしく表紙のような心象風景。そこに少女の言葉は存在しているのに,人は形を持たない。
 要は,TacticsONE〜輝く季節へ〜』の画面に,07th Expansionひぐらしのなく頃に解』の「罪滅し編」シナリオを重ね合わせて読んでいたわけです。そこに,あの結末―― 良い意味で裏切られました。『わらの女』が『スパルタの狐』となる静謐な幕切れ。読了後,虚無感と安堵感が一緒くたに残る。


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