内田洋子 『イタリアン・カップチーノをどうぞ』

 法学部の建物が先月末をもって閉鎖された。耐震補強工事をやるとかで,教授から院生に至るまで全員が研究棟から荷物をまとめて退去。それで自宅に荷物を持ち帰ってきたわけだが…… 本が多すぎる。従前「悪くないもの」は取っておいたのだけれど,基準を上げて「繰り返し読む価値のあるもの」だけを手元に残すことにした。
 かといって名残惜しい気持ちはあるので,内田洋子(うちだ・ようこ)『イタリアン・カップチーノをどうぞ 幸せが天から降ってくる国』(単行本:ISBN:4569546188,文庫版:ISBN:4569571689)を読み返してみる。
 インテリア情報誌『室内』(工作社)に連載されたエッセイ。客層にぴったりあった軽い文体で,食やファッションなど洒落た話題を取り上げている。ただ,口当たりはいいのだけれど,歯ごたえもない。筆者は徹底して感情表現を排除しており,観光パンフレットに載っている文のように,どことなくよそよそしい。イタリアの都市に例えるなら「ミラノっぽい」。
 珈琲を飲みながらめくる読み物としてみるならば,当たり障り無く好奇心を刺激してくれる本。今の私には,もう物足りなくなっていた。