マントヴァ

 少しばかり遠出して(と言っても片道2時間)ロンバルディア州の南東にあるマントヴァ(Mantova)へ。アンドレア・マンテーニャ(Andrea Mantegna, 1431-1506)が没して500年になるのを記念した展覧会が,彼の活動した地で開かれているというので出かけた次第。

会場はテ宮殿(Palazzo Te)。会場の前に,かなりの人が列を作って並んでいる。ようやく入場券を手に入れて中に入ったが,まるで日本の展覧会のよう。有名な絵の前に人が群がっている。懸命に背伸びをして何が飾られているのかを見ると…… あれ?見覚えがある。(ルーヴル美術館蔵の『美徳の勝利』でした。去年,パリで見たよ)。他には,ブレラ美術館蔵『死せるキリスト』も来ていました。
 しかし,いかんせん見物客が多すぎる。いくら良い絵でも,窒息しそうになりがら観るものではありません。残念でしたが,そそくさと退場。あとは宮殿内を見て回る。
 併設してマントヴァ市立美術館(Museo Civico)があるのですが,それとは分からない狭い階段を登っていった先。ぞんざいな扱いですが,常設展に並べられている作品も酷かった。
 テ宮殿はフェデリーコII世の別荘で,ジュリオ・ロマーノらが手がけた「だまし絵」のフレスコ画で飾られている。しかし,保存状態が極めて悪い。歴史を紐解くと,1526年,神聖ローマ帝国によってマントヴァが占領され,放置されていた時期が長くあったらしい。褪色が著しく,絵の善し悪し以前に朽ち果てた感じが先立ってしまう。

 テ宮殿前からバスに乗り,ドゥカーレ宮殿のあるソルデッロ広場へ。ところが,入口におばちゃんが立ちはだかって入れてくれない。そこで指さす方向に向かい,城門をくぐり抜けてみるとサン・ジョルジョ城(Cast. di S.Giorgio)の見学コースがあった。中では,羊皮紙に美しく着色され金箔が押された手書き写本を見る。
 でも,本当に見たいのは写本じゃないんだよなぁ,と思いつつ戻ってくると,おばちゃんが居ない。ようやくドゥカーレ宮殿(Palazzo
Ducale)の方へ。ここは「宮殿」ではあるけれど,その中を絵画で埋め尽くしている。テ宮殿と同様,壁は「だまし絵」が描かれ褪色しているけれども,絵画館として見るならば,そのさびれ具合が丁度良い。建物自体にしても損傷さえ少なければ豪華なのであって,星座たちを濃紺の背景に散りばめた天井画の描かれた「宇宙の間」などは往時をしのばせる。
 活気のあるエルベ広場を抜け,サンタンドレア教会(Sant' Andrea)は,パイプを縦に半分に割って横にしたような天井を持つ。15〜16世紀に建てられたルネサンス建築ならではの柔らかさを有する。
 アルコ宮殿(Palazzo d'Arco)も,美術館と呼んで差し支えないようなところ。貴族の館として1784年に建てられた屋敷の中に,調度品や収集品を所狭しと並べ,壁面には隙間無く絵画を飾り,さらに床面にイーゼルを置いて残る絵画を展示している。楽器や楽譜もあるなどクセがあり,持ち主の人柄が忍ばれる。こういうところは,それぞれの品が一級でなくとも,組み合わせを見るのが面白い。
 マントヴァの町を堪能したところで駅に向かう。次の列車は1時間後だというので,ホームのベンチに腰掛けて待つ。9月のイタリアは,修復作業中だったり短縮営業だったりと美術作品を見て回るには不便なところもあるけれど,気候は最適。心地よい陽気。バールで買ってきたアイスクリーム(クッキーに挟んであるもの)をかじりつつ,先ほど入手したマンテーニャの日本語ガイド(ISBN:4487763673)を広げて読む。