ミラノ(2/3)

 ミラノ(Milano)を訪問したのは実に6年ぶり。飛行機のトランジットでマルペンサ空港を経由したり,フィレンツェからの帰り道に中央駅で乗り換えたりと,通り過ぎてはいたのですけれど。
 まずはブレラ絵画館(Pinacoteca di Brera)へ。観光名所だけあって久しぶりに日本人と接近遭遇する。4人組の女の子は,祭壇画を見ている私の後ろを駆け抜けて「名画」に向かって突進していった……。新婚っぽいカップルは,展示室に備えつけてある案内パネルを土産に持ち帰りそうな振る舞いをして,見ているこちらがハラハラする。実は,ブレラには前も来たことがあるのだけれど,その時は旅行中に祖母が他界して緊急帰国するかどうかを検討しながらの観覧だったので,ほとんど記憶に残っていなかったのです。ようやく,まともに見ることが出来ました。
 次はポルディ・ペッツォーリ美術館(Museo Poldi-Pezzoli)に向かったのだけれど,手前にあるカフェテリーアに見覚えがある。店の突き当たりに螺旋階段があったはず――と思ったら,その通りだった。前は,ここでジェラートを食べたん(風景に関することばかり記憶力が良いのは困ったものです)。美術館の展示内容は「大階段」しか記憶に残っていなかったので,新鮮な気持ちで見ました。個人のコレクションで,家具や時計などが充実している。貴重品を収納するための引き出しには象牙に諸都市の地図を彫り込んだものがはめ込まれていて興味深かった。
 続いてサンタ・マリア・プレッソ・サン・サティロ教会(Santa Maria Presso San Satiro)を訪問するも,昼休みの時間帯に入ってしまっていて,門は閉ざされていた。ここには,わずか50cmほどの奥行きしかないのに数mもあるように錯覚する「だまし絵」を用いた祭壇画がある。建物を拡張しようにも道路にぶつかってしまって長さが確保できないため,遠近法を駆使して描かれることになったのだと美術書で読んだ。外観を見て,その意味するところを納得する。
 アンブロジアーナ絵画館(Pinacoteca Ambrosiana)の前まで向かったものの,昼時になったので,近くにあった地元客の多いカフェに入ってバゲットを食べる(注文した後で,彩り鮮やかな野菜をプレートに盛りつけた定食が美味しそうなことに気づく。次にミラノへ来ることがあれば,試してみよう)。
 さて,アンブロジアーナですが,ここはよほどの物好きでなければ来ないようなところなので人の数も少なく,落ち着いて回ることができる。収集された作品は,気品を備えたものが揃っており良質。特別展では,レオナルド・ダ・ヴィンチの「アトランティ手稿」を取り上げていた。レオナルドの死後,散逸してしまった着想ノートを集めたうえで,大きな紙に凹みを作って填め込み整理したというもの。レオナルドが画家であり彫刻家であり建築家であり発明家であったことは聞き知っていたものの,そのアイデアの数々を目の当たりにすると驚く。手稿をスキャンして取り込み,さらに3Dモデルにして動かしてみせるWindowsのプログラム(しかも日本語版)が実演されていて,思わず熱中してしまう。そういえば此処はミラノだったということを思い出し,館内の見学を続ける。特別展としてもう一つ,ティツィアーノの「晩餐」も来ていたのだが,これは実に素晴らしいものだった。
 アンブロジアーナを出て大通りに達したところで左を向くと,正面にどっしりと構えるスフォルツァ(スフォツェスコ城とも。Castello Sforzesco)がある。この中にも美術館(Pinacoteca)があるので足を運んでみる。案内図をもらって眺めてみると,12のユニットから構成されていることが分かる。しかし,わざわざミラノで「古代エジプト博物館」を見たいとは思わない。チケットを買う際に「ピナコテカに行きたい」と述べると,通常の入口ではなく専用階段を教えてくれた。ところが,これが混乱のもとに。すべての展示を見ることを前提に順路が組まれているところに途中で割り込んだものだから,進む方向が分からなくなっておかしなことに。結局,出口を探して放浪しているうちに「装飾芸術美術館」と「楽器博物館」と「家具博物館」も回る羽目になってしまいました(それはそれで面白かったのですけれどね)。で,お目当ての絵画館ですが,これがとてつもなく数が多い。ところが施設の造りがぞんざい。窓から強めの光が入ってくるところに,いい加減な向きで取り付けられた白熱灯も混ざるものだから,瞳のホワイトバランスが滅茶苦茶になってしまう。加えて,最初にパーティションを区切ってから適当に絵を置いていったようなところがあって,大きな絵なのに全体を見渡すのに必要な距離が取れなかったり。せっかくの絵が台無しでした。勿体ない。
 帰りがけ,いつものようにブックショップへ立ち寄る。すると,各国語で幟(のぼり)が立っている。伊語《Libreria del Castello》,英語《Castele Bookshop》,日本語《城の本屋》―― え〜っと,間違ってはいないですけれど,何かおかしいような気がします。


 ヘンリエッタを置いてきたことに気づき,一旦ホテルに戻る。ミラノ中央駅まで行き,いつも使う右手の階段ではなく,正面の側にある地下鉄入口から駅を見上げると,見覚えのある風景が。スクラップ帳と照合してみると,「『シンフォニック=レイン』でアル・フィーネが降り立つピオーヴァ駅」でした。街頭の形まで同じという,久しぶりに適合率の高い風景。
 急ぎドゥオーモ(Duomo)に向かってみるものの,すでに屋上への登り口は閉じられていた(イタリアでは,終了時刻の45分くらい前には入場受付を終了してしまうところが多い)。まぁ,昇ってみたところで「立ち入り禁止」の看板を撮るだけなので,かける労力に比して無駄が多いのですが……。ペトラが倒立していた足場は,外側から望遠で。あ,第7巻22頁右上にあるコマ(作業用出入口)を撮ってくるの忘れた。大聖堂を正面から見て左側にあるのは分かっているのに,うっかりしてたよ(泣) 18頁左下のコマでは修復工事のためファサードがすべて覆われていますが,現在は半分くらいの位置にまで下がっていました(工事が完了していなくて良かった)。
 ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世のガッレリア(Galleria Vittorio Emanuele II)では,「『シンフォニック=レイン』でカルツォーネの屋台が立っている天蓋」を撮影。背中を預けているのはPRADAのショーウィンドウ。
 ガッレリアを通り抜けてスカラ座(Teatro alla Sala)に出る。「『シンフォニック=レイン』のコンサートホール」だ。スカラ座は有名なので場所の割り出しは何も問題ないはずだったのだが,どうも印象と違う。どうしてだろうと思い,近くの土産物屋で絵葉書を手に取ってみると,色が違う……。先頃改修工事が行われた際に,白っぽく塗り替えたらしい。
 そこで少し立ち位置を変えてみると,『ガンスリンガー・ガール』第7巻23頁上のコマもスカラ座であることが判明。場所は分かっても,撮影は難航。5分おきくらいに走る市電がやってくるたびに,ちょうど中央のアーチに車両の左端がかかるような瞬間にシャッターを押そうと,数十分試行錯誤を繰り返す。
 そういえばアンジェリカの出てきた話でも「スカラ座」が出てきたことがあったよなぁ――と思い,スクラップ帳を手にして振り返ってみると,広場の中央にそれらしい像がありました。レオナルド・ダ・ヴィンチ像の斜め後ろに回って歩き回り,屋根の形まで同じに写るポイントを発見。
 日没を迎えたところで手近な軽食店に入り,ピッツァ&サラダで夕食にする。南欧ではセットの飲み物が,水/ジュース/ビールから選べて同料金なが嬉しい。