乙一 『失踪HOLIDAY』

 乙一(おついち)『失踪HOLIDAY(しっそう×ホリディ)』(角川スニーカー文庫ISBN:4044253013)読了。
 先週末,ちょっと時間のあった時に取り出し,所用時間を考えて収録順序では後になっている表題作を先に開く。主人公ナオは,表紙を飾っているツインテール少女(14歳)。貧乏暮らしをしていた母が再婚してお金持ちの家のお嬢様になったのだけれど,母は他界してしまう。落ち込んだ父を元気づけようとして手芸教室に通わせてみたら,そこで再婚相手のキョウコを見つけてきた。ある日,キョウコと口喧嘩をしていたら父がキョウコの肩を持つものだから家を飛び出す。離れに暮らすお手伝いさんクニコの部屋に身を隠し―― 自作自演の狂言誘拐ものをコミカルに仕上げた作品。親子間のわだかまりについては順当なメロドラマが展開されていたので「ミステリーっぽさが無いなぁ」といぶかしみながら読み進めていたら,最後には見事に収めてくれました。
 そして昨晩,短編「しあわせは子猫のかたち 〜HAPPINESS IS A WARM KITTY〜」を読む。こちらは厭世的な少年が主人公。大学入学を期に一人暮らしをすることにし,伯父の持つ家に移り住んだ。ところがその家には,家具や調度品がすっかり整えられている。聞けば,つい最近まで前の住人が暮らしていたのだと言う。かつての居住者サキは,三週間前に,この家の玄関先で刺されて死んだのだという。家の中には,サキが趣味にしていたらしい写真の数々と,白い子猫までもが残されていて―― 奇妙な共同生活を通じて描かれるものは,セツナサに充ち満ちていながらも柔らかな暖かさを伴った物語。良い話でした。