加納朋子 『ななつのこ』

 文学部での読書会に参加。今回のお題は,加納朋子(かのう・ともこ)のデビュー作『ななつのこ』(単行本ISBN:4488023347,文庫版ISBN:4488426018)を素材にミステリーとしての特質を論じる。
 議論の内容は,報告者のMさんが論文に使うということなので伏せておくことにし,此処では取り留めもない感想を……
 本作は,文学を専攻する短大生(19歳,女性)を主人公にした〈駒子シリーズ〉の第1作。彼女が『ななつのこ』と題する作中作の著者に手紙を送ったところ,返事が帰ってきた。そこには,彼女が目にして手紙の話題にした「スイカジュース事件」に対する謎解きがなされていた―― 7つの短編を通して〈日常の中の謎〉が展開される。
 特に事前情報も持たずに読み始めて「あ,登場人物の立ち位置と謎解きのプロセスが北村薫にそっくりだな」と思ったのですが,元々からして加納は北村に影響を受けて本作を執筆したのだという解説を聞いて納得。
 ただ,ミステリーにおける〈日常の謎〉という系の成立要件を考えてみると,読者に寛容力が求められるのかな,とも思う。本格ミステリーが読者に「人が密室で死ぬ」という前提条件への同意を求めるように,〈日常の謎〉系ではほのぼのイデオロギーへの賛同が必要だろう。
 で,議論では〈ほのぼのイデオロギー〉の源泉は男女の恋愛関係なのかも? という仮説が出てきて,話はいつの間にか米澤穂信の〈古典部シリーズ〉におけるカップリングに(笑) どうしてそんな話になったかというと,北村薫との比較で。〈円紫師匠と私〉の場合は「金持ちのホームズ役に食事をおごってもらうワトソン役の女子大生」という間柄で済みますが,本作の方は色々と邪推できますからねぇ〜(これって下心があって近づいたストーカー行為じゃないの?と呟いたら,肯いた人が複数)。
 そんなひねくれた読み方をせず本作の文面を文字通り読むと,暖かな眼差しをもって展開される物語は善意に満ちていて好ましいものでした。童話めいた作中作『ななつのこ』にしても,駒子とその周囲の人物の描写にしても。